教育研究所
№569「『ネット依存』から守るため」
今,保護者のみならず教師は,ネット依存に陥っている子どもたちの指導や対応に苦慮することが多くなっている。私も,これらの問題に対峙することもあって,他人事と思われない心境でいた。
そのような折,子どものネット依存の予防,ネットトラブルの相談活動や講演,アドバイザーの養成を行っている遠藤美季(エンジェルアイズ代表)氏の講演を聴く機会を得た。
子どものスマホ依存の低年齢化,LINEの長時間利用の弊害など様々な課題があるが,子どもたちにとって,ネットが「楽しい」ばかりではなく,「LINEをやらないとクラスの友だちとの会話に入れない」,「LINEをやめたら皆から仲間外れにすると言われている」と,常に使わざる得ない心理状況が影響している事例も多い。そんなことを思いながら講演を傾聴した。
遠藤氏の講演の印象的な内容を一部紹介したい。
子どものネット長時間利用の状況や心理を理解するためには,ネット依存の要因を理解することが重要であり,その要因は大きく分けて「同調圧力」「承認欲求」「自己満足」「オンラインゲーム」の4つが考えられるという。それらの特徴は次のような内容である。
特に目立つのは,「同調圧力」。みんながやっているから自分もやらないわけにはいかないという心理的プレッシャーの存在である。「みんながやっているから」というプレッシャー,即ち「同調圧力」が,子どもたちのLINE依存に拍車をかけている。
次に,SNSを使い,自由な人間関係を手に入れ,いろいろな自分を表現でき,心の内側に「承認欲求」を満たすことができるので,家庭での寂しさや自分を認めてくれない孤独感を埋めている事例がある。中傷や虚偽をあたかも事実のように書き込み,相手に大きな痛手を与える場合もあり注意したい。
また,SNSで自分以上の自分を表現したり,ゲームのレベルを上げるなど,「自己満足」のためネットがやめられず,学校の成績が下がり,親に叱られLINEを削除して,ネットから解放された子どももいる。さらに「オンラインゲーム」や「ソーシャルゲーム」に嵌って,昼夜逆転して不登校気味になるケースも珍しくないという。
このことを踏まえて,ネット依存を予防するには,子どもたちが,規則正しい生活を過ごし,家族との会話が自然な姿でできるような家庭環境づくりが重要となると強調された。そのようなことを通して,私たちにはネットより大切な人間関係・社会との結びつきがあるということ知る。そして,何よりも子ども自身の自己肯定感・存在感を育んでおくことがネット社会でネットに上手につき合っていく上で必要なことであると話された。
最後に,遠藤氏はネットに依存しない子どもは,「自分に自信をもち,自分の将来に夢を描き,家族とのコミュニケーションや自分自身を大切な存在として考えられる」という共通性があると語られていたことが,私には心に強く残っている。
しかしながら,子どもたちが「ネット依存」の心理的拘束から逃れることが大変困難な社会背景が存在していることもまぎれもない事実である。
教師は,積極的に子どもたちや保護者と同じ目線で課題に向き合い,考えたり話し合う機会を継続的に持つことが大切であると,再確認させられた講演であった。(H・H)
(2016年5月12日)