教育研究所
№580「教師としての哲学とは」
21世紀は人工知能社会といわれ,近い将来は「今あるもの」が「今ないもの」にとって代られる時代と予測されている。つまり,「今ある職種」が消えて,「今ない職種」が人工頭知能」にとって代わられるということでもある。
教育界では,「学んだ知識・体験」を活用・応用し,創造することができる子どもたちを育成することが求められている。一つの指導形態として,課題の発見と解決や新たな創造に向けて主体的・協働的に学ぶ学習「アクティブ・ラーニング」が注目されていることもそのことによっている。
友人から『ホンダ イノベーション魂!』(小林三郎著 日経BP社)を薦められ,読んでみた。
ホンダには"ホンダイズム"とも言うべき哲学があり,イノベーションの成功率を確実に高めている。創業者本田宗一郎社長がモットーとして掲げた哲学は,「三つの喜び」と「人間尊重(自律,信頼,平等)」の二つに集約される。「三つの喜び」とは,「作って喜び,売って喜び,買って喜ぶ」ことである。ユーザー,ディラーそして開発に関わる技術者たちの喜びを同時に実現することを目指し,中でも,「買って喜ぶ」を最も重要と考えている。「ユーザーが買ってよかったという喜びこそ,製品の価値の上に置かれた栄冠である」と明言している。
翻って,教師にとってのユーザーとは誰だろうか。それは,いうまでもなく子どもたちだ。「買ってよかったと喜ぶ顧客の想いに値する教師の哲学」とは,と問われたとき,私たち教師はどのように応え得るだろうか。
私は,本田社長の教えから,「子どもの心を理解する教師となることである」と考えたい。
学校現場は様々な課題が山積し,「教師は忙しい」と言われているが,私たち教師は,プロとしてのイノベーターであっただろうか。私自身は与えられた教育課程の中でひたすら,受け身としての教育者として存在しているのではないか。
子どもの喜び,感動,楽しみ,そし悲しみを受け止め,子どもへの愛情を持ち,教師の仕事に対する使命感や誇りを持ち続けているだろうか。
一人一人の子どもの才能を見いだし,チャレンジ精神や創造性を伸ばしているだろうか。興味・関心を持っている専門性を高め,意欲と能力のある子どもたちへの効果的な支援・評価を行うための教材研究,教材作りに有効な時間をかけているだろうか。
本田社長には,自らに課すイノベーターとしてのプロフェッショナルの生きざまがある。
いま,多忙な教師は,これから急速に進行する「21世紀の人工知能社会」に対応する資質・能力を育てるために,子どもたちにどう向き合うか重要な課題とされている。
子どもたちは,学校生活を通して多くのことを学び,喜びや感動を得,満足しながら,コミュニケーション能力,コラボレーション能力やイノベーション能力を身につけながら成長していく。
子どもにとって最も大切な存在は,よき教師であるという「教師冥利」はこれからも消えることはない。 (H・H)
(2016年7月7日)