教育研究所
№582「理科におけるアクティブ・ラーニング」
次の学習指導要領は,平成28年度に中央教育審議会より答申され,小学校は平成32年度,中学校は平成33年度から全面実施される予定になっています。
次の学習指導要領が目指す柱として,3点挙げられています(中央教育審議会の論点整理)。
(1)児童・生徒の資質・能力と各教科で学ぶ意義の明確化
(2)資質・能力を育てる教育課程の実現を目指す「学校全体のカリキュラム・マネジメント」の充実
(3)資質・能力を育てる「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善
ここでは,資質・能力を育てる「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善について考えてみたいと思います。先ず,「アクティブ・ラーニング」の意味について触れておきます。文科省はアクティブ・ラーニングとは,一応「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」と定義しています。キーワードは「課題の発見と解決」「主体的な学習」「協働的な学習」の3点です。
理科の授業ではすでにアクティブ・ラーニングは行っているよという声が聞こえてきそうです。確かに理科の授業では,(1)課題(問題)を把握し,(2)予想(仮説)を立て,観察・実験方法を考え実施し,(3)結果を整理して,(4)自然界の規則性を見つけ結論に達するという授業が行われていることが多いと言えます。ただ,思ったように科学的な知識・技能や資質・能力,積極的な学習意欲や理科への興味が育成できているかというと疑問を感じざるを得ません。一番の問題点は,上の学習過程が先生主体の学習になり児童・生徒が,自分の頭で考え問題を解決する内容になっていないことにあります。
理科を学習する目的をもう一度考えてみましょう。その目的は既に明らかにされた「事実」の内容を覚えることではありません。それでは,上の(1)から(4)までの課題の解決方法を形式的に覚えることでしょうか。それも違っていて,(1)から(4)の過程の各段階について,深めるための検討の仕方や方法について仲間と共に自ら考える練習をすることにあります。課題を考え抽出し,仮説を立てて観察・実験方法を検討する,結果(データ)の整理方法,結論の導き出し方などの「論理を組み立てる能力」を育てることにあります。それと共に,理科ですから自然の断片的な知識ではなく,自ら事実を脳内でシステム化して,組織的な知識を身に付けることはもちろんです。
理科の目的を達成するためには,児童・生徒が仲間と共に自らの頭と体を駆使して学習することによって,脳内に「論理を組み立てる能力」や「システム化した知識」を組織的に身に付ける必要があります。
では,具体的にどんな授業であれば児童・生徒の資質・能力等を育てることができるのでしょうか。(1)の課題作りと(4)の規則性を見つける場面について,具体的な授業内容の例を挙げて考えてみたいと思います。
授業例は「6学年,水の通り道」とし,根から吸収された水が植物体のどこを通って最後はどうなるのか,水を通す植物体の構造はどうなっているのかを探求する学習過程です。
○ 児童が課題作りをする
授業は先生が企画し先生が進めていきますが,各場面・段階で児童が主体性を発揮し,脳内の神経細胞がフル回転して資質・能力が育つように授業を進めます。その最初の場面が「課題づくりの場面」です。児童が自然界の疑問や課題に気付くには先生の仕掛けが必要です。何もない所から児童が疑問や課題に気付くことは有りません。
この単元でも,植物体と水との関係に気付かせる仕掛けが求められます。そこで先生は,3日前にホウセンカやヒメジオン等の植物体を赤い水の入ったつぼ状のガラスの花瓶に入れ,出入り口をアルミホイル等で封じて蒸発を防ぎ,水の位置に印をつけておきます。また,葉や茎の部分にはビニール袋をかぶせておきます。授業当日は花瓶の水はわずかに減り,ビニール内には水滴がついています。児童は3日前と授業当日の両方の仕掛けを目撃し授業に臨みます。
先ず,先生は「花瓶の水が減る原因」を聞きます。児童は「ホウセンカが根から吸収したか蒸発した。」と考えます。次に「ビニール袋の水滴がどこから来たか」を聞きます。児童は「ホウセンカから出たものか,空気中の水分かのどちらかである。」と考えます。先生は,ホウセンカの体内を水が通るかどうかを聞き,それを明らかにする方法を聞きます。児童たちは単元の課題として「ホウセンカの体内の水の通り道や,水の出るところを調べよう。」にまとまっていきます。
○ 児童が自然の規則性を見つける
ホウセンカの根,茎,葉を切って赤い水が通った部分を見つけて記録した児童は,そのデータから根から吸収された水が体内のどこを通って,どこから出ていくかを推論します。児童は,水は根の中心部分を通り,茎に入ると茎の外側に近い部分(輪の部分)を通り,葉の柄に入り葉に入ると網状に分かれ,最後は葉の裏の気孔から出ることを見つけます。この学習は4人班で協働して進め,最終的には学級全体で議論して結論を出します。児童には植物体の切り方や双眼顕微鏡の使い方等を指導したり,水の通り道(導管)の位置を4人で確実に見つけて記録したりすることを促したりしながら,児童自らで植物体内の水が通る仕組みを見つけるように勧めます。その間に4人班や学級全体の議論を何度も繰り返し行い,間違いを訂正しながら真実に近づく努力を促します。
以上のように,先生が指導する授業の中で,児童が自分で課題作りに参加し,仮説を立て,観察・実験により実証し,自然の規則性を探し出す授業を行うことにより,科学的な知識・技能や資質・能力,積極的な学習意欲や理科への興味が育成できると考えます。(Y・H)
(2016年7月19日)