教育研究所
№583「そうだったのか!」
花森安治の『逆立ちの世の中』(中公文庫)を読んだことがある。書名のごとく俗っぽく言えば,へそが背中近くにあるのではないかと言ってもいいような,凡人とは異なる視点,切り込み方,見方考え方に触れることができ大変面白かった。(現在執筆したものではないので,少々時代がかったものもあったが,私も古い人間なのでそれはそれで理解できた)
最近,NHKドラマの「とと姉ちゃん」に出てくる常子をぶっきらぼうに支える「偏屈な助言者」だと知って,何かいっそう親しみを感じてしまった。
常子(実は社長の大橋鎭子さん)と花森安治(編集長)は,最初は雑誌『スタイルブック』を創刊した。これが後に『美しい暮らしの手帳』と改題され,さらに現在の『暮らしの手帳』になったのだそうだ。そういう目で,ドラマを見るようになって,軽く受け流していた「とと姉ちゃん」が楽しめるようになるから不思議である。花森安治が,戦時中は体制派にくみし,戦意高揚に働いていたこと,戦後はそれを悔い改め平和を追求するようになったことも知ると,いっそう興味深く視聴するようになった。
『暮らしの手帳』そのものは,個人的に購読したことはないが,図書館,友人の家などで毎月のように目を通していた。したがって,実験した(商品テスト)データを基にした「商品名&製造元」を明記した性能などの公表は,結構活用したし,「なるほど!」と納得したことが多い。いまだに,時々手に取ってみている。
安全性,効能などに今一つ信頼感の持てない商品(特に健康に関する器具や薬など)が,氾濫している最近の状況を見ていると,生産者側も,消費者側も,それらを結びつける人にも,『暮らしの手帳』の様な「それぞれの立場での科学的・実証的な確認」が必要不可欠な気がする。花森安治は,生産者側が,その気になれば,消費者は安心して...と言う立場だったそうである。日本の伝統だった職人気質,性善説の民衆を裏切らない生産者・商人気質を,2020年オリンピック・パラリンピックで世界にさりげなく示してほしい。(H・K)
(2016年7月26日)