教育研究所
№605「浜名湖での同期会」
50年ほど前、私が大学を卒業し、教員として採用され初めて勤務したのは都立高校の定時制であった。当時の生徒たちの中には、東北地方から集団就職で上京し、働きながら定時制に通っていた若者も数多くいた。
学校は、学年4学級で編成され、生徒たちは仕事を終えた後、厳しい学びの環境を克服しながら教室にやってきた。教室は、彼らの生活環境そのままに賑やかさがあり、授業中騒がしい反面、学習意欲もあり、私にとっても充実した教員生活の第一歩となった。
授業だけでなく、部活動や学校行事を通して、夢中で生徒たちとともに定時制高校の生活を楽しく過ごしたことが、今では懐かしい思い出である。
その卒業生たちが企画した同期会への誘いの知らせを受けた。心を躍らせながら出席した。
会場は、静岡県の浜名湖に近い介護老人保健施設。そこに家庭への生活復帰を目指し、3年前からリハビリの努力をしている、当時、学年主任の体育担当の教師がいる。浜名湖での同期会開催は、この先生の出席を可能にするための配慮であった。教え子たちの粋な計らいに私は新幹線に乗った。
介護士に付き添われ、車椅子で会場に到着した先生を迎えた卒業生たちの拍手や表情は、当時の教室そのままだった。生徒たちの集団規律や行動等の指導は大変厳しかったが、面倒見の良い先生であった。会が始まり、挨拶の中で東北出身の卒業生の一人は、「生活に困って授業料が払えず退学も考えていた時に、担任だった先生が内緒で立て替えてくれたので卒業できた。」と涙ながらに語った。そして今日の再会をとても楽しみにしていたとのことであった。
浜名湖まで訪れてくれた卒業生への先生の喜びは大きく、嬉しそうな笑顔は、私の心に強く残っている。次回の同期会には、先生が元気になって東京で再会することを約束してお別れをした。
それぞれ齢を重ね、それぞれの人生を生きている。決して容易な生き方だけでなかっただろう彼らの優しさや他者への思いやりに教育の原点を見たような気がした。長い時間を経た今日、言葉では言い尽くせない教育の結晶を見たような思いで目頭が熱くなってしまった。 (H・H)
(2016年11月11日)