教育研究所
№606「理科における資質・能力の育成(1)」
平成29年3月に新しい学習指導要領が告示される予定ですが,次回の学習指導要領のキーワードは「教科を横断した資質・能力の育成」であると言われています。何故そう言われるのかを含めて,この際,数回にわたって理科における資質・能力の育成について話題にしてみたいと思います。
1,今なぜ資質・能力の育成が重視されるのか?
(1)自分で考え協働して答えを求める
グローバル社会では,経済や貧困・格差,戦争や核兵器など様々な分野で,専門家も答えを持たない複雑で世界規模の問題が,直接市民生活に影響を与えるようになってきました。こうした問題を解決して持続可能な社会を作るためには,誰かが答えを出してくれるのを待つのではなく,市民一人一人が考えや知識を持ち寄り,主体的に答えを作り出すことが求められます。
「何かを知っている」だけでは無く,それを使って「何ができるか・いかに問題を解決するか」が問われています。単に知識を覚えていることより,調べたことを使って考え,情報や知識をまとめて新しい考えを生み出す力が大事になっています。知識基盤社会における未来づくりは,市民自らが主体となって問題を引き受け,自力あるいは他者と協働して新しい答えや価値を生み出すことができるか,その資質・能力を有しているかにかかっていると言えます。
(2)資質・能力とは何か?
① 資質・能力
- 資質~人格も含めたその人の性質や素養,品性,才能など生まれ持ったものを指していることが多い。教育により高めることができます。
- 能力~物事を成し遂げることのできる力で,教育の過程で自分が努力して身に付ける力。
- 資質・能力~対象が変わっても機能することが望ましい心の働き。学習との関係で言えば,学び方や考え方に関するものであるので「方法知」に近い。しかし,「内容知・知識等」と「方法知・思考力・態度等」を分けないで一体であると考える立場もあり,中教審は後者の立場に近いと考えます。
② 新学習指導要領で育成する資質・能力
「中教審の審議のまとめ」では,今後育成する資質・能力を次のようにまとめています。
- 何を学ぶか~生きて働く「知識・技能」
- どう対応するか~未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」
- どのように生かすか~社会とかかわり人生に生かす「学びに向かう力・人間性」
2,理科における資質・能力
一人の人間の資質・能力は一体となっていて,必要な時に引き出されて順次発揮されるが,育成される段階では教科・領域によって特徴的・個性的に学習することになります。例えば国語では言葉を自由に使い,思いや考えを深め,その能力の向上を図る態度等を養うこと等が挙げられています。「理科における資質・能力」については,次の3点にまとめられています。
(1)理科における資質・能力
「理科における資質・能力」は,中間まとめでは次の3点にまとめられています。
- 知識・技能~自然事象に対する基本的な概念や知識,規則性の理解,科学的に問題を解決するために必要な観察・実験等の基本的な技能
- 思考力・判断力・表現力~自然事象から問題を見出す力,問題の予想や仮説を発想する力,解決の方法を発想する力,観察・実験の結果を解釈し結論を導く力等
- 学びに向かう力・人間性~自然に親しみ生命を尊重する態度,科学する面白さを知る, 問題解決の過程に関してその妥当性を検討する態度等
従来の「科学的な能力」と比較すると「学びに向かう力・人間性」が追加・改善されていると言えます。理科教育においても豊かな人間性を育成しようとする方向が見られことは,大切なことだと思います。
文科省の理科ワーキンググループでは,この「理科における資質・能力」をさらに各学校段階に整理しています。ここでは,小学校の例を挙げます。
◎ 理科の見方・考え方を働かせて,自然にかかわり,問題を見出し,見通しをもって観察・実験を行 い,より妥当な考えを導き出す過程を通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次の通り育成することを目指す。
- 自然の事物・現象に対する基本的な概念や性質・規則性の理解を図り,観察・実験等の基本的な技能を養う。
- 見通しをもって観察・実験などを行い,問題を解決する力を養う。
- 自然を大切にし,学んだことを日常生活などに生かそうとするとともに,根拠に基づき判断する態度を養う。
ここで気になる点は,現行の学習指導要領では理科の目標として設定している「科学的な見方・考え方」を,「理科の見方・考え方」と言い換えて,「資質・能力」を育成するための手段にしていることです。現行では最終目標は「~理解を図り,科学的な見方・考え方を養う。」としていますが,次回の指導要領では,「理科の見方・考え方を働かせて,~必要な資質・能力を育成する。」とし,手段として扱っていることに注意が必要です。
理科の見方は,「定性的,定量的に見ることや多様性と共通性,時間的・空間的に見ることを指しています。また,理科の考え方は,「物や現象を比較と統合,関係性や条件制御,推論等という視点」で考えることです。次回の指導要領では,児童・生徒がもっている「理科の見方・考え方」を生かして問題を解決し,資質・能力を身に付けることになります。(つづく) (Y・H)
(2016年11月21日)