教育研究所
№611「理科における資質・能力の育成(2)<№606の続き>」
1,新しい学習指導要領改定の方向
先月21日に文部科学省中央教育審議会の答申が公表され,新しい学習指導要領改定の方向が示されました。その方向は「学校教育を通じて育む生きる力とは何かを『資質・能力』として明確にし,教科を学ぶ意義を大切にしつつ教科等横断的な視点で育んでいくこと」としています。
2,理科の目標
理科においては「理科の見方・考え方を働かせて,自然にかかわり,問題を見出し,見通しをもって観察・実験を行い,より妥当な考えを導き出す過程を通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を育成することを目指す。」と述べています。理科の目標は,「自然の事物・現象問題を科学的に解決する資質・能力」を育成することだとしています。
3,理科の見方・考え方
理科の資質・能力については,前回,「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」,「学びに向かう力・人間力」の三点であると紹介しました。ここでは,「理科の見方・考え方」について詳しく見てみたいと思います。
(1)理科の見方
「理科の見方」は理科の各領域における特徴的な見方を指していて,エネルギ―領域では,事物・現象を量的・関係的な視点で捉えます。例を挙げると,電磁石の磁力は電流の量やコイルの巻き数により影響を受け,磁力の方向は電流が流れる向きに規定されるなどがこの例です。
粒子領域では,事物・現象を質的・実体的な視点で捉えます。例を挙げると,水の三態変化では水は氷(固体)水(液体)蒸気(気体)に変化するが,実体としての水は姿を変えても存在するなどの例です。
生命領域では,事物・現象を多様性と共通性の視点で捉えます。例を挙げると,昆虫にはモンシロチョウやコオロギ,クワガタ,シオカラトンボ等,多様な種が存在するが,全ての昆虫の体は頭,胸,腹からできていて,足が6本あるという共通性がある例などです。
地球領域では,事物・現象を時間的・空間的な視点で捉えます。例を挙げると,天気は時間とともに変化する視点と住んでいる県単位や日本全体という空間的な広がりの視点で捉えなければならない例などです。
ここまで話を進めてきて気付かれたかと思いますが,以上の4領域の4つの視点は,その領域に特徴的であっても固有なものではありません。他の領域で用いられる視点でもあり,理科全体としての視点であるとも言えることを考慮して用いるべきでしょう。
(2)理科の考え方
理科の考え方は,事物・現象をどのように分析的に考えていくのかということです。問題を解決する学習過程において「比較・総合したり」「関係付けたり」「条件を制御したり」などの科学的に探究する方法を用いて,事象の中に何らかの規則性や因果関係を見出せるか考えることです。
以上のことから,「理科の見方・考え方」は,自然の事物・現象を質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたり等の科学的に探究する方法を用いて考えることと定義することができます。
次回は,「理科の見方・考え方」を働かせて自然にかかわり,問題を見出し,見通しをもって観察・実験を行い,問題を解決する過程を通して,問題を科学的に解決するために必要な資質・能力をいかに育てるのかについて,具体例を挙げてお話したいと思います。<つづく> (Y・H)
(2017年1月11日)