教育研究所
№691「算数授業『は・か・せ』」
算数授業のまとめの段階で,いくつかの考え方や仕方が出たとき,「どれがよいか」を議論する際に,子どもに「比較」するためにいくつかの視点を与えることが,よく行われる。このことについて,BOKE老人がイチャモンをつけてみたい。
15年ほど前,K市立第三小の算数授業のまとめの段階で,「では,『はかせ』で,どれが一番いいか比べてみましょう」と子供たちに投げかけた。子供たちは「はかせ」で比較することに習熟していて,「一番速いのはどれか?」「一番簡単なのはどれか?」「答え(結果)が正確なのはどれか?」で,真剣に議論していた。考え方や仕方などを比較して議論(ディスカッション)する視点を与えることの大切さを実感した。しかし,ものの考え方や仕方で「速い」と言うことにどれほどの価値があるのか。その子供が新しく見つけた考え方や仕方は,どれも同等に価値があり,「速い」と言うことで価値づけるのは一面的でおかしいと,イチャモンをつけた。
これを伝え聞いたH市立K小学校の算数授業では,「せかい」(正確,簡単,いつでも言える)と改善していた。ここでは,「速い」ではなくて「いつでも(一般化)」を議論の視点として取り入れたことは素晴らしいと認めた上で,「速い」は視点としては好ましくないし,正確と言うのも「計算ならいいが,説明や資料の選択では正しい,好ましいということになる」とイチャモンを付けた。
暫く後で,K区立D小学校の算数授業では,「たかい」(正しい,簡単,いつでも)で,学習のまとめをさせていた。なるほどと感心した。「ただし,簡単は低学年で,中学年からは簡潔の意味にしたほうがいいのでは...」と,また少しイチャモンをつけてしまった。
ところが,最近,ある書物で,「はかせどん」(速い,簡単,正確,どんなときでも)で算数の学習まとめをさせている実践例に出会った。「簡単(簡潔)」「どんなときでも(一般化)」はまあいいとしても,「速い」「正確」は考えものである。実は,「はかせ」は,算数科の学力≒計算力と言うような発想から,計算は「速く」,計算は「簡単」な仕方で,計算は「正確」と言うことが強調された中から生まれてきたのだと,聞いたことがある。なるほどと理解したものの「算数科の教科目標」を吟味すると,「数学的な見方や考え方」の育成を重視していることが分かる。常に,進化させていき,子供を狭い所に囲い込まないよう心したいものである。(YAYU)
(2017年8月10日)