教育研究所
№697「ツマグロヒョウモン」
庭に来る虫について自由研究をした孫に触発されて,どんな虫が来るのかボ~っと庭を観察してみた。そういえば,今年は,「ツマグロヒョウモン」が姿を見せない。「そうか!」だからいつもは茎だけになってしまうスミレが,葉を青々とさせているのだ。あのグロテスクな幼虫も見かけない。何か原因があるのだろうか?
ある日,「すごい進化「一見すると不合理」の謎を解く」(鈴木紀之著・中公新書)を見つけた。そして,購入してしまった。巻頭のカラー写真の1頁目に,「スジクロカバマダラ」,「カバマダラ」,「ツマグロヒョウモン」が紹介されていたからである。
「スジクロカバマダラチョウ」は,体内に毒を貯め込んでいるので天敵の野鳥から襲われることがほとんどないそうだ。ところが,「ツマグロヒョウモン」は野鳥の好物で襲われる。そこで,有毒で目立つ「スジクロカバマダラ」に似せること(進化させること)で,野鳥からの攻撃を免れているというのである。ところが,「カバマダラ」や「ツマグロヒョウモン」は,「スジクロカバマダラ」に似せているというもののその擬態は完璧でない(不完全)のである。このことは,素人の私にも口絵の写真を見ればすぐわかる。
進化を自然淘汰でどこまで説明できるものか。「進化はすごい」と信じている人と,様々な制約で自然淘汰が妨げられたり,全くの偶然によって有利でない形質が広まったり維持されたりする「進化はそれほどでもない」というスタンスの人がいるようである。著者も「虫って間抜けだなあ」と印象を受けつつ「実は合理的に機能しているはずだ」と考える姿勢を忘れないようにしていると言う(序章より要約抜粋)。
トンボ,テントウムシ,アリ,アブ,アブラゼミ,クモ,ヘビなど身近な生物を通して,「進化の捉え方」「見せかけの制約」「合理的な不合理―あるテントウムシの不思議」「適応の真価―非効率で不完全な進化」「不合理だから面白い」という多様な視点から「進化のすごさ」をいろいろ解き明かしてくれる。久しぶりに,根拠のある論理的な文章に満足した。
そして,久しぶりに庭に出てみた。「スジクロカバマダラ」の不完全擬態の「ツマグロヒョウモン」が1頭見つかり,あの気味の悪いそして可愛い幼虫もスミレの葉を食べているさまが観察できた。(K・H)
(2017年8月30日)