教育研究所
№712「目立たない『ケヤキ』ではあるが・・」
先日,東京の西方を東西に走る五日市街道を車で移動中,沿道の農家の敷地内にそびえるケヤキの木の列に感心した。その堂々たる高さと全姿,幹の太さと重量感は素晴らしい。
しかし,小・中学校の敷地内では,ケヤキはあまり目立たない。春のサクラの開花や秋のカエデ,イチョウの紅(黄)葉に比べると,ケヤキは何時見ても緑色の葉を茂らせているか,冬は枝と幹のみが見られるのみである。
このどこの学校にもある目立たないケヤキを教材としてみると,なかなか面白い面があることに気付く。先ずケヤキの1年間を概観してみよう。
3月末に全く葉がないところに突然冬芽が展開し,小さな新しい葉が発生し始め,みるみる木全体が緑色に染まっていく。よく見ると葉は枝に互い違いに付き皆重ならないようにして,太陽の光を受けられるようにしている。葉の発生と共に一斉に光合成を開始し,養分を生産し始めるものと思われる。
4月に入りサクラが開花し注目を浴びている頃,じつはケヤキも開花の時期を迎えている。木の下から見ても花らしきものは見られないが,低い枝や小さな脚立や梯子に乗って枝を見ると,小さな黄色の花を見ることができる。
一つの枝の上部の葉の腋に雌花が付き,下部の葉の腋に雄花が付いている。雌花も雄花もいわゆる花弁らしきものはなく,雌花は後で果実になる1個の子房と2個の柱頭のみである。
雄花も4~5裂する花被と5~6個の雄しべがあるのみで,アサガオやタンポポ等に比べると原始的な植物で比較するのによい植物である。受粉は風の力で行われるので,花粉は大量に生産されることになる。
秋には花の後に果実ができるが,その散布の仕方が面白く児童・生徒の学習として有効な教材になると考える。10~11月ごろの風の強い日の後ケヤキの木の下をよく見ると,長さ15~6cmの果実を付けた小枝が落ちている(写真)。小枝に付いた4~5枚の葉の腋に,大きさが3~4mmぐらいのややいびつの果実が付いている。
果実は1個ずつばらばらに落ちるのではなく,枝に付いたまま風によって回転力を得て遠くへ移動するのである。葉がヘリコプターの回転翼の役割を果たして,果実(中に種子)を散布している。
考えてみると葉は2種類あることに気付く。1つは光合成をして養分を作る普通の葉であり,もう1つは腋に果実を抱え果実を散布させる役割の葉である。そういえば,前者は陽光を十分受けるために面積が大きく,後者は風を受け素早く回転できるように小型でシャープな形状をしている。
陸の植物は4億年もかけて進化し続けていることを実感した次第である。
上の内容は小学校3,4,5学年,中学校1学年の教材に活用できるかもしれない。
(Y・H)
(2017年9月22日)