教育研究所
№721「仕事と労働」
仕事と労働の違いは,「『仕事』とは,誇りをもってすることである。強制されているわけではなく,むしろやる気に満ち溢れている。達成は社会的に素晴らしいこととされる。一方,『労働』とは,完全に生きるためだけにやっていることである。従って,やらないで済むならできればやりたくないことである」である。
これは,ドイツ出身でアメリカ(ユダヤ人のためナチスの時代亡命した)で活躍したの哲学者ハンナ・アレント(Hannah Arendt)が定義したもの(要約引用)である。
浅学非才の自分は,仕事をするために労働すると思い込んでいた。辞書「実用新国語辞典(三省堂)」では,『仕事』は「事務,労働,作業。職業,職務。物理で,物体に力が作用して動いたとき,この力の大きさと,物体が動いた距離との積」と,『労働』は「体を使って働くこと,生産のために身体・頭脳を活動させること」と定義(説明)されており,仕事は労働の対象であり,労働は仕事を成し遂げるための行為であると理解できる。ただし,仕事の意味の中に「労働」とあり,私のちっぽけな脳は混乱してしまう。
「広辞苑(岩波書店)」では,仕事は「する事,しなければならない事。特に職業・業務を指す。ことをかまえてする事,また悪事」とあり,労働は「ほねおりはたらくこと,体力を使用してはたらくこと。人間が生活に役立つよう手・脚・頭などをはたらはせて自然質量を変換させる過程。理科で,力が働いて物体が移動した時に,物体の移動した下向きの力と移動した距離の積を,力が物体になした仕事と言う」とある。仕事に悪事の意味があるとは,泥棒が「ひと仕事してくるか」と言うあれだと思う。
ついでに,「小学国語辞典(くもん出版)」で調べてみる。仕事は「働くこと。職業」とあり,労働は「人がからだや頭脳を使って働くこと」と説明されている。
ここまで来て,くたびれてしまった。凡人は難しいことや分からないことを,優しく説明してくれることを望み,哲学者は凡人の望みを気に留めず難しく絡み合わせるようである。「私には十分わかった」という人がいるはずだから,どうか教えてください。(YAYU)
(2017年10月12日)