教育研究所
№733「中学卒業までに教科書を読む力を」
7月,文部科学省から,今年の中学3年生からが受験の対象となる「大学入学共通テスト(仮称)」,「基礎学力診断テスト」の方針が公表され,大学入試センターは,大学入学共通テスト導入に向けた試行調査(プレテスト)を11月13日~24日に実施する(英語は2月13日~)と発表しました。
大学入学共通テストの国語と数学に記述式問題も導入され,英語は,英検やGTEC,TOEFLなど民間の資格・検定試験に替えることが,大きな特徴です。
これまでのセンター試験の「知識・技能」を中心のテストから,思考力・判断力・表現力を重視した問題が出題されるとともに,多様な選抜方法を導入することで,「主体性・多様性・協働性」を評価して,「学力の3要素」を総合して合格者を決めるということが,今回の入試改革のねらいです。
2011年から5年間に渡って,国立情報学研究所が立ち上げた,「ロボットは東大に入れるか」人工知能プロジェクトにおいて研究,開発が進められてきた「東ロボくん」は,昨年受験したセンター試験で高得点・偏差値をマークし,進研模試総合マーク模試で全国の国公私立の70%に合格できる成績を残したものの,人工知能の限界が見えたことから,「東大受験をいったん断念」しました。
国立情報学研究所の新井紀子教授は,「東ロボくんにとって文章の意味を理解できない問題や過去に学習していない英語や国語の問題は解答できず成績が落ちてしまう。人間は,パターン認識,クリエイティブなこと,そして問題解決に優れている。人間は,文字を読み理解できるけれど,コンピューターにはできない。少なくとも,今は。」と,結論づけています。と同時に,新井教授は,「東ロボくん」が東大の合格圏に届かなかったものの,受験者の80%を上回る成績を残したことで,
「文章を理解できない東ロボよりも,得点の低い高校生がいるのは,どういうことだ?」
「この高校生たちは,文章の意味を理解できているのだろうか?」
「義務教育で,教科書の文章を読める力は,本当についているのだろうか?」,などの疑問が残りました。
昨年,新井教授は,2万人の中・高校生を対象に,教科書をベースにした読解力調査を実施しました。その中で,多少の計算が必要な条件整理問題はAIにも回答が難しいとしても,「意味を理解する」力を持っているはずの人間でも正答できない問題が多々あったとのことです。
新井教授は,東ロボくんに関する研究を通じて,子供たちが身に付ける力とは,「文章を読み,正しく理解する『リーディングスキル』にあり,それが欠如して,教科書を読解できなければ,意味が分からないし,参考書や問題集が読めない。教科書を読めるということは,子供の未来を左右する大きなファクターであり,中学を卒業するまでに中学校の教科書レベルの文章を読めるようにすることが,教育の最重要課題です。子供たちが自分で自分の学習能力を伸長させる基盤を作っていきたい。」と,強調しています。
※参考文献:「Educo」(エデュコ№40 2016年初夏号 教育出版株式会社)
社会が今,学校に求めている資質・能力は,「知識・技能の習得」,「理解していること・できることをどう使うか。思考力・判断力・表現力の育成」,「人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養」という「学力の3要素」です。
当分AIやロボットが追いつきそうにない資質・能力である「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」をいかに育てていくかが重要です。そのためには,まず,教科書をしっかり読解できる力を身につけることが大切です。
東ロボくんの生みの親の一人として,子供たちにより良い教育を施したいとする新井教授の気持ちは,子供を持つ親,教育に携わる先生方はじめ,誰とも変わらないと思っています。 (H・H)
(2017年11月15日)