教育研究所
№755「方丈記」
書籍の山を整理していたら色褪せた鴨長明「方丈記」が出てきた。有名な冒頭の「ゆく川の流れは絶えずしてしかも,もとの水にあらず」のところに,「川の水の流れは絶えることなく流れているように見えるが,よく見ればそれは決して同じではなく遷り変わっている。一見不変と見える川の姿に,世の中の無常を見ることができる」と,鉛筆でメモがしてあった。「外国文学もいいけど,日本人だから日本の古典のことをもっと勉強しなさい」と諭された高校時代の古文の遠藤先生のことを思い出した。
ところで,孔子の「対訳論語」も出てきた。「子川の上に在りて曰く 逝く者はかくの如きか 昼夜をすてず」と,孔子が川の上(川のほとり)で流れる川の水を見て思ったことが書いてある。その意味は,本文よりひどく長く「すぎゆくものはすべてこの川の水のようなものか。昼も夜もやむことなく去る。すべては去り,すべては過去となる。流れゆく川の水のように,時は過ぎ人もまた老い,その生命の週末に向かう。」と,孔子が時の流れとともに老いていく人生の悲哀を語っている。
ところが,後世の儒学者は,むしろ前向きに,昼夜を捨てず流れ続ける川の動きは,人間もまた川の水のように生き続け発展し続けるものと解釈されるようになったのだそうである。
「論語」は今から約2500年前に編まれ,「方丈記」は約800年前に表された。さて,現在,誰かがどう解釈し表現するだろうか,楽しみである。(H&M)
(2017年12月18日)