教育研究所
№775「70周年を迎えた定時制通信制高校への思い」
昨年3月に告示された小,中学校の学習指導要領の改訂に続き,「高等学校学習指導要領」の告示も目前に迫っています。そのコンセプトは,社会に開かれた教育課程の編成のもと,生徒たちの「主体的・対話的で深い学び」の実現,基礎学力定着に向けた学習改善です。また,高大接続改革に向けた高校教育の質の確保・向上も求められています。
このような教育界の中にあって,本年度は,定時制通信制高校がスタートして70年目の節目の年でもありました。
発足当時の定時制高校は,働きながら学ぶ勤労青少年に対する高校教育を受ける機会として,また通信制は,第一次実施科目(国語甲,解析,地学,人文地理)と呼ばれた履修科目を学ぶ高校として発足しました。そして,1960年代以降,いわゆる高度成長期に「金の卵」として,地方から都会へ多くの中学校卒業者が「集団就職」してきました。その学びの場が定時制高校でした。また,通信制は,企業内の職業訓練施設と連携して,集団就職の若者が高校卒業資格を取得する場でもありました。
しかし,1970年代から全日制高校への進学が当たり前のようになり,現在は,高校への進学はほぼ全入となっています。反面,中途退学者が急増し,その退学者の受け皿として定時制通信制高校が大きな使命を担っている状況にあります。また,最近は,各都道府県に履修形態の弾力化を図る新しいタイプの単位制定時制通信制高校学校が設置されるようになりました。
昨年,ある都立の単位制定時制高校の文化祭で,その定時制高校から大学に入学して教員を目指している若者から話を聴く機会がありました。小,中学校の時はずっと虐められてきて,学校というところが大嫌いだったそうです。しかし,入学したこの高校には,彼のような高校中退者はじめ,不登校経験者や主婦,社会人,天才と呼ばれるような芸能人など様々な人がいて,初めはできずにいた挨拶やレポートや試験の情報交換もそんな人たちと交流しているうちに自然にできるようになったそうです。また,先生方のサポートもあり,「学ぶということのイメージが変わった。学校に自分の『居場所』があったことが一番嬉しかった。人間としての生きる自信や誇りを芽生えさせてくれた高校三年間でした。」と,笑顔で語ってくれました。
学力向上,キャリア教育や高大接続に向けた高校教育の改善は重要です。しかし,定時制通信制教育の原点は,生徒が自ら考え,判断し,自分の考えを伝え,様々な人々と協働しながら自立した自己をつくる場であり,環境であることを忘れてはならないと思います。まさに,「主体的・対話的で深い学び」の実現とは,このようなことだと考えます。
定時制通信制高校で学ぶのは,なにも勤労青少年だけとは限りません。様々な理由で中退した生徒の学び直し,特別な支援を必要とする生徒,外国籍の人,また,年齢の幅も実に広く60歳代の人も珍しくありません。そんな中で,生徒に寄り添い,自立・就労・修学支援を果たしている教師はもちろんのこと,学校の存在と役割はとても重要です。
夜間定時制高校が廃校等で減少していく中,私は,定時制通信制高校の存在意義を改めて見直し,社会全体で支援していくことが必要であると再認識しています。(H・H)
(2018年1月23日)