教育研究所
№825「本当に,幽霊は出るか?」
3・11東日本大震災の被災地石巻市で,「幽霊を乗せたことがある」体験のあるタクシー運転士に,インタビューをしてまとめた「卒業論文」が話題になっている。
友人のYさんが,その論文を紹介してくれた。(金菱清編「呼び覚まされる冷静の震災学」 新曜社 本体:2376円に収録されている)
論文のテーマは「死者たちが通う街―タクシードライバーの心霊現象」(東北学院大学学生工藤優花)である。内容は,「1:石巻の怪奇現象(不確かな幽霊現象,タクシードライバーの特異な幽霊体験)」「2:タクシードライバーの幽霊現象を支えるもの」「3:無念の思いを伝えられたタクシードライバー」「4:恐怖心を引きずっていない理由(地元石巻市におけるタクシードライバーたちの役割,霊魂に対する心象の良さ,聞き取り対象者の匿名性と霊魂への畏敬)」「5死者たちが通う街(例に寄り添う,これからのこと)」「おわりに」と,インタビューしたことを淡々と整理たものである。
タクシードライバーの語ったことは,「事実」と言えるのだろうか。本人が体験したと語っているから,それは事実であるという受け止めもできる。しかし,ある精神状態の中で朦朧と思ったのか,こういうことがあるのではないかということがあたかも体験したかのように思い込んだ,夢うつつ状態でそう感じたのか,夢を見たのか,そのあたりをもう少し検討してほしかった。心理学的医学的にある程度明らかになっている幼児の空想と事実の混同,高齢者に限らないが被害妄想による空想ごとなどが日常生活の中にある。
「お化け」「幽霊」「魂」などは曖昧で,科学的に,合理的に説明できないに違いないが,論文作成者の工藤さん(このテーマに関心がとどまっていたらの話であるが)のさらなる追究を期待したい。(H・K)
(2018年4月13日)