教育研究所
№840「安全教育の推進」
近年,「安全教育」の充実が叫ばれている。登下校中の児童生徒の尊い命が奪われたり,SNS利用による犯罪被害の増加など,児童生徒の安全に関する環境は大きく変化し,その深刻度は増すばかりである。
このような状況を踏まえ,安全で安心な社会を目指すと同時に,児童生徒が自らの身を守る能力を身に付けさせることが重要であることは言うまでもない。
『学校安全』の領域は,登下校,校内,家庭・社会生活など,日常生活で起こる事件・事故,犯罪に対する「生活安全」,交通環境に起因する「交通安全」,自然災害や火災,放射能災害に対する「災害安全」の3つから構成される。
昨年2月に,全国から教育関係者500人以上を集め,『全国・東京都学校安全教育研究大会』が開催された。先日,テーマ「生命を守るために危険を予測し,安全のための行動ができる児童の育成」についての研究・実践し,その成果を発表した会場校の東京都江東区立第一大島小学校を訪ね,校長先生から『安全教育の推進』についての取り組みと子供たちの様子を聴く機会を得た。
子供たちの命を守るには,子供自身が安全に対する正しい知識と行動力を身に付けることが大切である。しかしながら実態は,先のことを考えずに行動したり,次の指示をただ待っていたりする姿が少なからずある。第一大島小は,『明るい子・考える子・助け合う子』という教育目標を掲げ,自分たちの身の回りに潜む様々な危険を予測し,主体的に安全な行動できる子供を育成する教育活動を推進している。
1.安全教育を推進して目指す児童像
低学年:身の回りの危険に気付き,安全な行動をしようとする児童
中学年:危険の原因を知り,危険を予測した安全な行動ができる児童
高学年:様々な危険を予測し,すすんで安全な行動をするとともに,
身近な人々の安全にも気配りをしようとする児童
2.安全教育の3本柱としての取組
①日常的な安全指導:必ず指導する基本的事項を確実に身に付けさせるために,
日常的な教育活動に繰り返し指導
◎安全指導日 (月1回 始業前20分間)
②定期的な安全指導:身に付けた知識等を体験的に理解させ,深化させる指導
◎避難訓練 (予告無し,清掃活動時,中休み,授業中,保護者参加型)
◎交通安全 (毎朝登校班指導,一斉下校訓練)
③安全学習:自分や他者の安全を守るためのよりよい行動をじっくり考えさせる指導
◎各教科 道徳 総合的な学習の時間 特別活動(学級活動)
○「危険予測・危険回避」を柱にした授業の実施
・「土地のつくりと変化」 (第6学年「災害安全」:地震による土地の変化)
・「SNSについて考えよう」 (第6学年「生活安全」)
・「津波について知り,避難の仕方を考えよう」 (第5学年「災害安全」)
・「安全に過ごすために必要なことを幼稚園児に伝えよう」 (第5学年「生活安全」)
・「自動車事故に遭わないようにするために」 (第4学年「交通安全」)
・「じしんがおきたら」 (第3学年「災害安全」)
・「学校の周りの交通安全を調べよう」 (第2学年「交通安全」)
・「不審者から身を守る方法を考えよう」 (第1学年「生活安全」)
○関係諸機関を活用した授業の実施
・初期消火の仕方(消防署)
・横断歩道の渡り方(警察署)
・SNSの使い方(NTT)
第一大島小の先生方は,子供たちの健康,安全に対する「学校安全」の意義・重要性を深く認識し,年間指導計画に基づいて全校的な指導体制を確立している。そして,家庭や地域との連携をさらに進め,「安全教育」に日々熱心に取り組んでいる。
その結果,子供たちは,安全に行動することの大切さを理解し,自ら安全に行動することはもちろんのこと,家族や身近な人々の安全にも気配りすることができるまで成長したと校長先生は語ってくれた。
そのお話を聞いた後,校内を見学し,明るく元気よく勉強したり,挨拶する子供たちの姿に触れて,校長先生の言葉を実感し,清々しい気持ちになった。
新小学校学習指導要領の総則編「現代的な諸課題に対して求められる資質・能力(第2の2の(2))」では,「各学校においては,児童や学校,地域の実態及び児童の発達の段階を考慮し,豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた諸課題に対して求められる資質・能力を,教科横断的な視点で育成していくことができるよう,各学校の特色を生かした教育課程の編成を図るものとする」とある。
まさしく,第一大島小学校の「安全教育」はその意義を理解し,様々な災害や事件・事故等の危険性について学び,そのための情報収集しながら,知識・技能を身に付けさせている。その実践に熱心に取り組む姿に感銘を受けた。(H・H)
(2018年5月14日)