教育研究所
№870「『都立光丘高校 --ICTパイロット校--』-ICT活用の推進,様々な活用方法の実践―」
先般告示された新しい高等学校学習指導要領総則に「各学校においてコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」という文言が盛り込まれた。
これは,小中高一貫したICT教育をさらに充実させ「言語能力,情報活用能力,問題発見・解決能力等」の育成を図るためである。
東京都教育委員会は,タブレットPCの特長を生かした授業改善を行い,より主体的で能動的な学習に取り組める環境整備はどうあるべきか検証するために,都立高校,都立中等学校,約190校の中から,ICTによる学力向上を目指すモデル校として,平成28年度から4年間にわたり,光丘高校と三鷹中等教育学校の2校を『ICTパイロット校』に指定した。
先日,そのうちの一校である光丘高校を訪問し,校長先生から実施してきた成果と課題等について話を聴く機会を得た。
3年目を迎えた今年度は,教員及び全校生徒に一人一台のタブレットPCを貸与し,全員が教育クラウドを利用できるような環境整備を行った。それにより,いつでもどこでもインターネットに接続することで,授業や校外行事,家庭学習,家庭との連絡等,教育活動におけるICT機器の効果的な活用についての実証研究が確実に行えるようになった。
タブレットPCの利用は多岐にわたる。例えば,学習支援クラウド【Classi】は,中学校での授業の振り返りや大学入試に向けた学習,学力向上に向けて,予備校講師が解説する約1万本もの5~10分程度の教材動画等,時間や場所の制約を超えた学習が可能である。
また,学習支援システム【schoolTakt】は,【Classi】と同様,テストや宿題を配信して,生徒が解答すると瞬時に採点が行なわれ,授業後の「アンケート」機能から理解度調査が活用できる。さらに,グループ間,生徒と先生とのメッセージのやり取りもできるので,授業,生徒の学習指導の改善に役立っている。
(※【schoolTakt】:生徒の学習状況をリアルタイムに把握し,生徒同士の解答を共有することで,「みんなで学び合う」学習環境を構築できるシステム)
実践している取組例
- 電子黒板やタブレットPC等を活用して,生徒同士による意見交換,発表など,お互いを高め合う学びを通じて,思考力,判断力,表現力などを育成している。
- タブレットPCは,聞く,書く,覚えるという基本を保管・拡張して,生徒自身が,調べる,記録する,説明する,表現する,創る,見せる,発表する,蓄積する,共有するなどの多様な学習活動を,時間や場所に関わらず行うことができる「学びのツール」になっている。
- 家庭であらかじめ教材動画を見て,基礎知識を予習して,授業では,応用問題や実験・実習,グループによる討議等アクティブな学習を行う「反転学習」を取り入れている。
- 1年生は,授業の基礎,大学等受験や公務員・就職試験の基礎を身に付けるために,月曜から金曜まで5日間朝学習で,5教科(国・数・英・理・地歴)を出題して,学習習慣の定着と基礎学力の向上を目指している。
- 「理科の実験をタブレットPCでビデオ撮影し,文字を挿入するなど編集,考察を加え,レポートを作成する」,「世界史B(社会科)では,自分の考えを投稿し,クラス内で友達の意見やモノの見方等を共有し,自己の考えを変容,発展させながら学習を深める」など,いわゆる「未来型知性」を身に付ける学習活動を実践している。
このように,授業をはじめ,調べ学習やグループ討議,プレゼンテーション等の学習活動をより効果的に行い,情報活用能力を育成している。
生徒たちの変容(感想・授業中の発言等)
- タブレットPCと【schoolTakt】を利用することで,クラスメイトの異なる考えを知ることが容易になり,自分の視野や思考を深めることができるようになった。
グループ間・個人間の競争を取り入れると,学習が活性化する。 - 事前に基礎知識を学習しているので,授業の理解度が上がる。また,家庭学習の習慣が身につく。
- 配信動画という新しいツールで,今までにない学習方法を経験して,意欲・理解度が向上している。
- Webテストにより,自分の学習到達度や正答を,解答後すぐ確認できるようになった。
- 自分の苦手意識のある部分や理解度の低い部分を自己評価するいい機会となっている。
平成30・31年度は,これまでの成果と課題を踏まえて,「基礎学力の徹底,反復学習の充実と指導方法の改善」を目指して,
◎ ICT機器を活用した有効な指導内容と指導方法の研究
◎ 学力向上に資するためのデータ分析と個別学習の充実
に取り組んでいる。
校長先生は,「各学年,校務分掌・各教科会等々における情報交換や研修する機会が増加し,先生方が,生徒のために様々な情報を共有して成果を上げることから,今後,どのような指導内容,方法が学力向上や生きる力の育成に関連して効率的な指導,校務削減につながっていくか,より一層検討・実践を重ねていきたい。」と,熱く抱負を語っていた。
校長先生をはじめ先生方のICT機器の特長を生かした熱心な指導,生徒たちの主体的で能動的,創造的な学習への取り組む姿を目の当たりにして,これからの社会を生きる生徒たちが,「生きる力」を身に付けるために欠かせない経験となると確信した。(H・H)
(2018年7月11日)