教育研究所
№871「鈴懸の木(プラタナス)」
10数年前,オランダのライデン市に2週間ほど滞在していたとき,ライデン市民が高さ25mもあるプラタナスの街路樹の下を自転車や車,運河の船などで通勤する様子をながめていて,日本の新宿御苑のプラタナスを思い出しました。ヨーロッパではギリシア時代にもう植えられていて,その後ギリシアはもちろんパリやロンドンはじめ多くの都市の街路樹として植えらました。パリではマロニエ(セイヨウトチノキ)と並んで有名な街路樹です。実はプラタナス(Platanus)はグループ名で数種類をまとめた名前です。日本には3種類が導入され,スズカケノキ,アメリカスズカケノキ,モミジバスズカケノキが植えられています。
明治時代に初めて導入されたのはモミジバスズカケノキで,先の新宿御苑のプラタナスの並木はこのモミジバスズカケノキです。その後全国の都市に植えられるようになり,今では街路樹の数の多さではイチョウと並んで日本で1~2とのことです。モミジバスズカケノキは成長が速く排気ガスや埃に強く,丈夫で長持ちすることから植えられているようですが,他の2種類も数は少ないのですが公園や街路に活用されています。
スズカケノキの名前のことですが,国際的な共通名(学名)「Platanus orientalis」とは別に,日本で素敵な和名を考えだしました。果実が下がっている様子から山伏の麻の上着「篠懸・すずかけ」に似ていることから「篠懸の木」という名にしました。その後いつの間にか文字が「鈴懸の木」に変わり現在に至っています。確かにスズカケノキの果実が下がっている様子は,鈴が下がっているようにも見えますが,はじめに命名した人たちが想定した内容とは違ってきています。
スズカケノキ(鈴懸の木)の特徴は,大きいものは高さ20~30mになり,幹の色が暗灰褐色で一部はがれ,はがれた部分は灰白色になるので全体としてまだらになります(写真1)。葉は大きく幅14~15cmで五角形になり,深く切れ込みが入ります。花は5月に咲き雄の花と雌の花があり,虫による受粉が終わると雄花は落下し雌花が幼い果実を付けます。果実はやがて直径3~4cmの球形に成長しますが,たくさんの細い棒状の果実が集まった集合果です。原産地は,バルカン半島などの地中海沿岸からヒマラヤまでの広い地域が原産地です。
アメリカスズカケノキの学名は,「Platanus occidentalis」ですが,原産地が北アメリカであるところから,和名にアメリカが付けられました。
世界で最も多く植えられているモミジバスズカケノキは,実はスズカケノキとアメリカスズカケノキの子供(雑種)です。学名は雑種を表す「Platanus×acerifolia」ですが,葉の形態がカエデに似ていることから,和名はモミジバスズカケノキと命名されました。モミジバスズカケノキは,スペインあたりで自然に交配してできたものを,人間の手で増やしたのではないかと言われています。この3種はどこが違うのでしょうか。次に整理してみたいと思います。
(1)視点1~葉の上部の三角形の裂片のギザギザ(鋸歯)
・スズカケノキの裂片のギザギザ(鋸歯)は,3~6個(写真2)あります。
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・アメリカスズカケノキの裂片のギザギザ(鋸歯)は無いかあってもわずかです(写真3)。
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・モミジバスズカケノキの裂片のギザギザ(鋸歯)は,2~3個です(写真4)。これは
両親の中間の数です。
(2)視点2~果実(集合果)の数の違い
・スズカケノキの集合果は1ヵ所から,5~7個下がります。
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・アメリカスズカケノキの集合果は1ヵ所から,1~2個下がります。
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・モミジバスズカケノキは1ヵ所から,2~3個下がります。これは両親の中間の数です。
両親の中間の形態を表現するモミジバスズカケノキは,地中海~ヒマラヤ原産のスズカケノキと北アメリカ原産のアメリカスズカケノキの雑種ですが,現在では世界中で両親より多く植えられていると言われています。
3種のスズカケノキを一緒に植えて,比較・研究できるようにしている場所が東京都内にあります。それは東京都文京区の東京大学大学院付属植物園(小石川植物園)と東京都目黒区の林試の森公園です。両施設とも3種のスズカケノキを近くに植え,比較・研究できるようにした上,解説版を用意して観察者が理解しやすいようにしています。一度訪れてみてください。
「鈴懸の木」は小学校4学年や中学校1学年の植物教材として,活用してみてはいかがでしょうか。(Y・H)
(2018年7月23日)