教育研究所
№888「『国立(くにたち)に五商あり 人づくり夢づくりの商業高校(まなびや)』」
-地域の大学,商工会,企業と共有・連携した「開かれた教育課程」の推進―
本年9月4日,東京都公立高等学校校長会主催「校長実践研究会・学校改革部会」が開催された。その研究発表の中で,多くの校長先生からも称賛されていたのは,「カリキュラム・マネジメント」「チーム学校」の視点から学力向上に向けた組織的取組などの教育活動を通して,学校改革に取り組んでいる東京都立第五商業高等学校の佐藤俊一校長先生の実践報告であった。
先日,私は第五商業高等学校(以下五商)を訪問し,佐藤校長先生から詳しいお話を聞く機会を得た。
五商は,東京都国立(くにたち)市という文教都市に設置され,創立全日制課程77年,定時制課程67年を迎えた伝統校である。
佐藤校長が着任した平成25年4月に,最新設備を誇る新校舎が完成した。そして一昨年,体育館,武道棟,プールの新設,グランド,テニスコートの改修工事も終わり,4つのパソコン教室,総合実践室をはじめ,充実した視聴覚室や図書館など,都内でも有数の最新施設設備のもとで学習できる都立高等学校である。
平成23~25年頃の都立商業高校は,中学からの志望倍率が低く,普通科と比較して中途退学率も高く,産業界や進学先での必要な能力の育成が十分できない状況にあった。それを克服するためには,商業高校での学習・生活全般を通してきめ細かな指導を行い,学力や専門的な知識を育み,生徒が希望する進路選択を実現させ,産業界が求める人材を社会に送り出す専門学科としての役割を果たすことが重要な課題であった。
佐藤校長は,着任してから今日まで,学習指導や生徒指導,専門教科の深化・進路学習をはじめとする進路指導等を推進し,教職員,保護者,地域(産業界,大学)との連携を図り,「チーム学校」として,カリキュラム・マネジメントを確立して教育課程の改善・充実に取り組んでいる。
特に,受験に必要な学力の育成や取得した資格を活用する大学進学指導計画の充実を図るなど,進学もしっかりサポートし,平成23年→29年の大学,専門学校への進学率は,39%→54.4%と大幅に増加した。就職は,51%→44%と減少傾向にあるものの,7年間連続就職内定率100%との都立高校屈指の就職実績を保っている。また,平成24年度30名を数えた中途退学者も年々減少し,昨年度は一人もいなかったとのことである。
1.過去4年間(平成26~29年度)の五商の学力向上に向けた組織的な主な取組例
(1)平成26年度
・定期考査一週間前より,全ての必修科目で朝学習を実施
・大学進学指導計画『白き翼』(5つの柱:①「資格取得」②「進路ガイダンスの充実」③「英語力の向上」④「小論文対策」⑤「面接・口頭試問対策」)を組織的にスタート
・平成27年度の入選方法を変更;第一次募集の学力検査科目を3教科から5教科へ
(2)平成27年度
・ICTタブレットパソコン40台が先行配備され,授業で活用開始
・外部模試1回(6月)と学力調査問題(2月)による学力定着度の分析と指導
(3)平成28年度
・一部の科目を除いて,定期考査問題や授業進度の統一化
・「主体的・対話的で深い学び」の研究授業を20回実施し,「研究紀要」を作成
(4)平成29年度
・生徒の主体性を重視して「ノーチャイム制」を導入
・選択科目に教養を中心とした「中国語」(30年度から「韓国語」)を開講
・2年間の研究成果を活かして,学習の手引き『学びの羅針盤』を作成し全生徒に配布
・生徒の学力に合わせ外部模試を年間3回実施し,生徒の理解度を分析,把握して指導
・学校行事計画の9月から11月を『検定推進月間』として,生徒の意識の向上を図る
・平成30年度の入選方法を変更;特別推薦を廃止し,推薦選抜の割合を20%→15%に
2.今年度(平成30年度)の取組
・教育課程をビジネス科に改編し,「ビジネスを考え,動かし,変えていくことができる力」を育成
・一日6限→7限に,各45分授業,週35コマの時間割に変更
・2年生の必修科目に,「ビジネスアイデア」「英語論理表現」を先行導入
・学習支援クラウドサービス(Classi)を導入し,「学びの振り返り」「学習動画やWeb等の活用」など,学習活動,主体的・対話的な深い学びへの取り組みを重視
・大学進学指導を委員会組織から進路指導部へ移管し,全教員による指導体制を確立
・次年度の教育活動の準備:3年教養選択の語学科目や講座数の追加,JPX(日本取引所グループ)起業体験プログラム,TOKYO GLOBAL GATEWAYとの連携を検討
3.『五商ブランド』の確立
校長先生は,生徒が高校生活を通して感動体験を積み重ね,思い出という「宝物」を得て卒業してほしいと願い,そのためには,教育内容の充実化に努め,学力向上,資格取得,進路学習,学習習慣の定着や,学校行事,生徒会活動や部活動等の充実,心身の健康・体力の向上等を目標に掲げ,それを教職員が一丸となって力強く推進している。
五商が誇る5つの特色
① 資格の五商:簿記や情報処理など多くの資格を取得し,就職や進学に活かす。情報処理技術者国家試験「ITパスポート」の合格実績は全国トップクラス。
② 進路実現の五商:就職実績は都立高校で最高レベル。大学進学は,資格取得を活かした大学進学・公募推薦により受験可。大学進学指導計画が合格をサポート。
③ 部活の五商:東京都商業高校体育連盟で3年連続総合優勝の実績。文化系13,運動系28の部活動を通して,上級生,下級生との交流から楽しい学校生活。
④ 楽しい学校行事がいっぱいの五商:体育祭,文化祭,合唱祭,修学旅行などの行事を通して協調性を。流した汗の感触等,一生の思い出の宝物を。
⑤充実した施設設備と恵まれた環境の五商:最新の施設・設備を有した新校舎は,緑に囲まれた国立の住宅街の中にあり,恵まれた環境のもとで高校生活を。
最後に校長先生は,「今年度の教育活動の重点である『教育内容の充実と進路実績の向上』を一層推進して,急速に変化する経済社会の中,卒業後の将来,社会で活躍するために必要な柔軟な真の実力をつけて,高いレベルでの進路希望の実現を強く支援していきたい。文教都市国立で地域と連携し,地域に根差した教育を推進している五商を,大学,専門学校や就職先の方々が信頼と期待を込めて,五商の教育を『五商ブランド』と呼んでいる。そのような期待や信頼に応えられるよう,五商ブランドの確立を図っていきたい。」と熱く語っていた。
高等学校新学習指導要領には,今日の変化の激しい社会において「社会に開かれた教育課程」の実現を目指した学校教育を推進していくことが示されている。現在の社会や世界の動きに視野を広げ,これからの社会を創り出していく生徒たちが,自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを,教育課程に明確化し育んでいくこと。地域の人的・物的資源を活用して,社会と共有・連携しながら学校教育を推進していくことが求められている。
学校と地域社会と連携協働し,開かれた教育課程を実現しながら,様々な授業の場面で地域の学校や企業等と連携し,職業人として必要な知識や技術を主体的,かつ意欲的に学習できる五商の生徒たちは,産業界,地域社会の経済を支える中核的人材として巣立っていくものと確信している。(H・H)
(2018年9月18日)