教育研究所
№896「命の誕生」
いのちの誕生というと赤ちゃんが生まれる瞬間の感動的な場面を思い浮かべますが,今回は人目には触れにくい植物の静かないのちの誕生の話です。
今年は7月から2か月半猛暑が続きましたが,それでも8月の中旬頃から山野の草木にどんぐりやイノコズチ等の果実(種子)が付きはじめ(写真1),田畑の稲やりんご等の作物が実り始めました。校庭や公園のアサガオやエノコログサにも果実(種子)が付いています。これらの果実(種子)は新しいいのちですが,遺伝子的には親のいのちを継続するいのちであるとも言えます。今年の初めにはなかったこれらの新しいいのちは,毎年どのような経緯でいつ頃産み出されているのでしょうか。
植物の新しいいのちが産まれるためには,種子ができる植物の場合は母親側と父親側の準備が必要です(写真2)。母親側の準備は,花が開花する頃までに花の中央にある雌しべの下部の子房の中で,母細胞から卵を作る必要があります(写真3)。父親側の準備は,開花する頃までに雄しべの先端の葯の中で,母細胞から花粉を作る必要があります(写真4)。
また,母親と父親の遺伝子がうまく癒合できるように,父母の母細胞の核にある遺伝子を含んだ2本セットの染色体を,卵と花粉ができるまでにそれぞれ1本にして(減数して)おく必要があります。父母の体の細胞内の遺伝子を含んだ染色体は2本がセットになっていますが,卵と花粉の遺伝子を含んだ染色体は1本のみなります。やがて,両者の卵と精子が合体し,1本ずつの染色体が癒合して2本になり種子ができ,父母と同じ2本の染色体をもった植物に成長します。
両者の準備ができたところで,虫や風,水などの力を借りて花粉は雌しべの先端(柱頭)まで運ばれます。雌しべの先端(柱頭)にくっついた花粉は,自ら細い花粉管を出して子房の中に入っていき花粉管の先端部にある精細胞(精子)を卵に届けます(図1)。新しいいのちは卵に精子が到達し,両者の核が癒合(受精)した瞬間に誕生します。ここで両者の遺伝子が合体して,両者の遺伝子をもった子供(種子の赤ちゃん)ができます。種子の赤ちゃんは細胞分裂を繰り返して,1人前の種子として成長します。種子は新しいいのちとして来春等に発芽して,新しい草木を形成していくことになります。
受精の時期は植物の種類によって春から夏にかけて決まっています。例えば,アサガオは7月頃,イネは8月頃,イチョウは9月頃に受精します。
以上は種子ができる植物の新しいいのちが生まれる過程ですが,小・中学校の植物教材の指導に参考になれば幸いです。(Y・H)
(2018年10月4日)