教育研究所
№928「菊の花をめでつつ」
秋の風情を楽しみながら観光地や植物園をめぐると菊花展が開かれていて,多くの品の良い色と形の菊の花が展示されています。個々の作品を注視すると,育て上げるためにどれだけの努力と時間が注がれたのかと考え,尊敬の念を禁じえません。また,その形の多様性と高い完成度に感心いたします。
キクの仲間は菊花展に出品されるグループの他に野に咲くヒメジヨオンやハルジオン,タンポポやノゲシ,さらにアザミまで世界に約24000種が生息し,日本には約600種(含む外国からの帰化約200種)もあります。中には草ではなく木やつる,水生のキクの仲間まであり,その多様性には驚くばかりです。
この多数のキクの仲間は分類学的には,どのように分けられているのでしょうか。また,このキクの仲間の中で地球上に最も早く出現したのは,どんなキクなのでしょうか。
キクの花は1つの花に見えますが,実は多数の完成された小さな花の集まりです。その数は数個から数百個,中には一千個近いものもあります。その上で,どんなグループに分けているのか見てみましょう。
先ず,菊花展に出品されるキクのグループ(Aグループとします)をよく見てみましょう。花弁がくだ状になった特殊なキクは例外として,一般的には花の周辺にひらひらした舌のような花(周辺花)が付いています(写真1)。色は黄色や淡紫色,濃赤色等様々です。さらに,花の中心を注視すると,小さく花とは思えないような花が集まっています(中心花)。色は黄色が多いのですが様々な色があります。虫メガネで見ると細かい花弁が5枚あり,中心に雌しべが顔を出しています。つまり,このAグループのキクは,2種類の花が花の周辺と中心に棲み分けているのです。花の周辺の花(周辺花)は形が舌に似ているので「舌状花(写真2)」といい,中心の花(中心花)は筒状なので「筒状花(写真3)」といいます。それぞれが小さいながらも独立した花なので,1個のキクの花は数個~数百個の集合花であると言えます。菊花展に出品されるキクはイエギクの仲間ですが,ヒマワリや路傍のヒメジヨオンやハルジオン,コスモス,ヨモギ,シュンギク,ハハコグサ,チチコグサ,ウスユキソウ等も「舌状花」と「筒状花」を持った同じAグループの仲間です。
キクの大集団の中で,花の周辺の「舌状花」のみからなり,筒状花がない仲間があります(Bグループとします(写真4))。これはタンポポの仲間です。タンポポの花も多数の花の集まりですが,1個の花をより分けてよく見ると(写真5),小さな1個の花は舌のような花弁と先端が二分した雌しべと雌しべ直下の雄しべからできています。最下には小さな楕円形の子房があり,子房に多数の毛が付いています。春の花の時期が終わり夏から秋にかけて舌状の花弁や雄しべ・雌しべが落ちる頃,子房が果実に変化しふわふわした毛に風を受けて遠くへ旅立ちます。このBグループは茎や葉を切ると,白い乳液を出すという特徴があり簡単に見分けられます。セイヨウタンポポ,カントウタンポポ,シロバナタンポポ,ハルノノゲシ,アキノノゲシ,ニガナ,コウゾリナ,鉄道沿いに増えている欧州原産のブタナ等は,このBグループに入ります。
3番目のグループは,「筒状花」のみからなり,「舌状花」を欠くアザミの仲間(写真6)です(Ⅽグループとします)。アザミの仲間は筒状の花弁をもち,花弁の先が5つに分かれ紅紫色を呈することが多いグループ(写真7)です。先端の雌しべや雄しべ,最下の子房や毛の様子は他のグループとほぼ同じですが,「筒状花」のみが集合したグループです。このⅭグループのもう一つの特徴は,多くが葉や茎,花に鋭い刺を持っていることです。動物の食害を避けることが狙いかと思いますが,私たちが観察するときには苦労します。ノアザミやノハラアザミ,ハマアザミ,キツネアザミ,エゾアザミ,富士山周辺に生育する巨大なフジアザミ等はこのCグループに入ります。
4番目のグループは,「筒状花」と「舌状花」からなる「センボンヤリ」のグループ(写真8)です(Ⅾグループとします)。このグループの特徴は「筒状花」の先が不同に5つに裂けることと,周辺の舌状花が唇のように2つに分かれることです。数は少なく日本にはセンボンヤリとノブキの2種しかありません。
最後に,5番目のEグループの「コウヤボウキ」の仲間です(写真9)。このグループの特徴は,花が1~16個の「筒状花」のみからなり,筒状花の先が不同に5つに裂けることと,果実に付く毛が柔らかい毛ではなく剛毛状になることです(写真10 )。やはり数は少なく日本では15~16種が生育しています。
上の5つのキクのグループの中で地球上に最も早く出現したのは,どのループなのでしょうか。実は,Ⅾ・Eグループの「センボンヤリ」と「コウヤボウキ」のグループが,最も早く出現したと考えられています。化石の発見・分析や分子系統学的研究により,2グループは現在の南アフリカで白亜紀末(7000万年前頃)に出現したことが明らかになっています。他のA~ⅭグループはD・Eグループから進化・派生し世界に広まったのです。それでも4000万年前頃までには,地球上に出そろっていたと考えられています。
キクの仲間は,地球上でマメやイネ,ランの仲間と同じく最も大きなグループで人の利用も進み,花として鑑賞するイエギク,アーティチョーク,食用のレタス,シュンギク,ゴボウ,キクイモ,油採取のヒマワリ,ベニバナ,染料のベニバナ,薬草のヨモギ等が活用されています。
小・中学校においても身近なキクの仲間を花の仕組みや機能,受粉と受精,光合成と葉の仕組み,水や養分の通り道等の理科の学習に教材として活用されることをお勧めいたします。(Y・H)
(2018年12月3日)