教育研究所
№936「自ら学ぶ力を育む『哲学対話』~『大山の生徒は入学後伸びる!』」
大山高校は東京都板橋区にある都立高校である。
東京都教育委員会から「カリキュラム・マネジメント推進校」の指定を受け,「大山高校 ここからスタートする未来」をスローガンに掲げ,生徒の大学進学実現に向けて,主体的・対話的で深い学びを育む教育課程を編成・推進し,社会で活躍し続けられる生徒の育成を目指している。
また,「学力向上推進校」,「進学指導研究校」の指定も受け,外部人材を活用した個々の生徒の学習支援(校内寺子屋)や進学対策についての研究や教科・進学指導の実践力を高める取組を行なっている。その結果,数年前までは少なかった大学への進学も,一昨年度は県立沖縄芸術大,昨年度は国立山梨大学,上智大学はじめ国公立,難関私立大学などへの一般入試・推薦入試で進学する生徒が増えている。
さらに,明るく楽しい高校生活を送ることができるようにと,部活動は全員が加入するようになっている。運動系には,野球(硬式),サッカー,陸上,硬式テニス,バレーボール,バスケット,バドミントン,柔道,水泳,ダンス,卓球,ワンダーフォーゲル,ソフトテニス,フットサル部,文化系には,吹奏楽,軽音楽,和太鼓の音楽系の他,演劇,茶道,調理,写真,美術陶芸,漫画研究,ボランティア,服飾デザインと,部活動の多様性が特徴である。
昨年12月,大山高校を訪問し,小山秀高校長先生から学校の教育活動の特色をはじめ,生徒たちの様子を聴く機会を得た。
〇「哲学対話」に取り組む大山高校
3年前から東京大学大学院総合文化研究科梶谷真司教授の指導を受けて,人の意見に耳を傾け,考え,話すための「哲学対話」を通して,深い学びを実践している。昨年4月には1年生全員で実施するとともに,月2回のペースで,生徒の「哲学対話」を行い,思考力・判断力・表現力等を育み,2020年の「大学入学共通テスト」に向けて取り組んでいる。
「哲学対話」は,ディベートと異なり,生徒たちが自分ごととして考え,自らの意見を持つことが基本である。それが他の人の意見をよく聞き,考え,語り合うなど,生徒たちの考えを深めることにつながっていく。一人一人の生徒が,いろいろと考えることによって,自分の目標も定まり,勉強にも意欲的になり,進学実績につながっていく。
先生方の研修にも「哲学対話」を取り入れたことにより,いつも堅苦しい印象を持つ会議でも多様な意見が飛び交うと同時に,雰囲気も柔らかくなり,授業に向き合う姿勢も変わり,指導意欲も高まっているとのこと。今後は,教員・生徒,保護者,地域の方々とも,「哲学対話」をしてみたいと,校長は楽しそうに話してくれた。
〇大山高校の主な取組は次の通りである。
1.「哲学対話」で,生徒が自分自身の目標設定を
2.教員志望大学生による授業サポート・放課後自習室支援
3.海外修学旅行と探究学習(平成29年度入学生から台湾へ)
4.進学合宿(夏季休業中)の平成29年度から実施
5.1・2学年対象「大学受験対策講座」平成30年から実施
6.「大学模擬講義」「大学ガイダンス」「社会人の職業紹介」
7.キャリア講演会 講師:平成30年度 油井亀美也氏(宇宙飛行士)
平成29年度 高桑早生選手(リオパラリンピック陸上)
平成28年度 姜 尚中氏(東京大学名誉教授)
8.生活指導の充実 携帯・スマホ等は授業時間中ロッカーに 部活動全員加入
・・・・・これからの大山:今,勉強が苦手でも大学進学を目指す!・・・・・
・進学指導の一層の充実:大学進学希望者「大学入学共通テスト」全員受験
土曜支援プロジェクト(大学受験対策講座など)
〇「大山の生徒は入学後伸びる!」
(梶谷教授から大山高校における「哲学対話」の取組から頂いたメッセージ。「大山高生は,よく考え,語り,聞くことを実践していってほしい,「哲学対話」を継続することで,進学実績も自然に上がっていくと思います。」)
〇生徒募集方針 「特進クラス」の設置
国公立・難関私立大学を目指す生徒が増加し,2年進級時に「特進クラス(進学発展クラス)」を設置します。
1.大学進学を目指す高校
2.2020年入試改革対策として,「哲学対話」により探究学習を推進
3.大学進学予定者は,全員「大学入学共通テスト」を受験
4.「海外修学旅行」(国際化対応)を探究の場に
5.土曜講座(進学指導),放課後自習室(基礎学力の定着):難関大学学生のサポート
「6年前に大山高校に着任してから,年々,大学進学希望の生徒が増えていった。中学時代は多少勉強が苦手であっても,大学への進学の夢と希望の実現に向けて,生徒たちを迎える先生方の指導体制も十分整っている大山高校から是非スタートしてもらいたい。」と小山校長先生は最後に熱く語ってくれた。
一昨年,沖縄芸術大に合格した卒業生の合格体験記,『中学校の頃は部活動に夢中で勉強は得意でなかったけれど,入学後は,何にでも挑戦してみるよう心掛けました。土曜講習,夏季講習,大学生が質問に答えてくれる放課後自習室,生徒のための「哲学対話」にも行きました。先生方には,大変助けていただき,とても感謝しています。中学生の皆さんも大山高校で夢を実現させてください』と綴っていた。
大山高校は,授業,学校行事,部活動はじめ「哲学対話」や土曜講習,放課後自習室等での教育活動を通して,生徒たちの秘めている潜在能力を引き出し,学習意欲の向上と将来の進路実現を考えることができる「深い学び」を実践している。
大山高校に入学した生徒は,この卒業生のように,中学校では,あまり勉強しなかった生徒でも,主体的,能動的に学ぶ授業をはじめ,様々な教育活動を通して,掲げている「ここからスタートする未来」のスローガン通り,生徒一人一人の夢,希望の実現を目指して,素晴らしい高校生活を送ることと確信する。
※◎「哲学対話」(philosophical discussion)について
哲学対話は,1970年代アメリカの小学校の授業に取り入れられる形で広がりはじめた。
現在では,児童・生徒の自律的思考や相互理解を育む教育の一環として,各国で哲学対話を導入する学校が見られる。
哲学対話の教育現場では,教師は生徒が「問い合う」ことを促し,自らの主張によって相手の主張を退けることのない対話が実現するようにする。設定した「問い」について複数人がお互いに考えを話し合い,「問い」に対する根本的な理解を深めていく。
「哲学対話」は,哲学上の理論や回答の模索を目指したものではないため,参加者の哲学の学習歴に関わらず実現が可能である。
〇「哲学対話」のやり方
対話の目的は,参加者が一つの「問い」をめぐって考えたこと・感じたことを述べ合い,聞き合って,考えを深めることである。
対話の最も基本的な流れは次の通り。
① イスに輪になって座る
② 対話のコツとルールを確認する
③ 題材となる本の読み聞かせや映像などをみんなで観る
④ その中で,気になったことを挙げる
⑤ みんなで本日の「問い」を決める
⑥ Qワードを使いながら「問い」を掘り下げていく
Qワード:「なんで?」「たとえば?」「反対は?」「ほかの考えは?」など
⑦ みんなで対話を振り返り,ワークシートに気づいたことを書く
〇【対話するときの7つのルール】
1.何を言ってもいい (空気はよまなくていい,考えることが目的!ゆっくりと話す)
2.人を否定したり茶化したりしない (他の人を傷つけたり威圧しない)
3.発言せず聞いているだけでもいい (発言しない自由も必要,考えることは諦めない)
4. お互いに問いかけることが大切 (すべては問から始まるので)
5.自分の経験に即して話す (経験には優劣がないから)
6.結論がでなくても,まとまらなくてもいい (何かを決める場ではない)
7.分からなくなってもいい (理解が深まった証拠)
最後まで聞く! みんなが安心して話せる場を作ることが大切である。
(H・H)
(2019年1月9日)
※あけましておめでとうございます。本年もなにとぞよろしくお願いいたします。