教育研究所
№947「『高大接続改革の推進』~大学入学者選抜改革の動向~」
これからの児童生徒には,現代の社会に必要な知識の習得にとどまるのではなく,新たな価値を創造していく力を育てることが求められている。なぜならば,グローバル化,生産年齢人口の急減,AI等の技術革新の進展によるSociety5.0の到来など,大きな社会の変化の中で生き抜いていかなければならないからだ。
そのなかで,高等学校においては,他者と連携・協働しながら学ぶ姿勢を身に付け,社会の中で自立し,生き抜く力を育成することが必要とされている。
文部科学省の高大接続改革においては,そのために必要な「学力の3要素」として,
① 知識・技能の確実な習得
② (①を基にした)思考力,判断力,表現力
③ 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
をバランスよく育むことが重要であると明示されている。つまり,高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜を通じて,この「学力の3要素」を確実に育成・評価する,三者一体的な改革を着実に推進することが求められているのである。
◎大学入学者選抜改革の動向
2021年1月から開始される「大学入学共通テスト」では,学力の3要素を多面的・総合的に評価する記述式問題の導入,英語での「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能評価への転換が大きな変更点である。
また,評価方法,実施時期等を見直した各大学の個別試験(AO入試・推薦入試)においても,小論文,プレゼンテーション,教科・科目に係わるテスト,共通テスト等のいずれかの活用の必須化,調査書※の記載内容の取扱いなど,学力の3要素を評価することは,入試改革の根幹であり,高等教育改革の大きな課題の一つである。
※調査書の見直し:2021年度より項目が追加・変更され,生徒の特長や個性,多様な学習や活動の履歴についてより適切に評価する
・各教科・科目及び総合的な学習の時間の学習における特徴等
・行動の特徴,特技等
・部活動,ボランティア活動(取組内容,期間等),留学・海外経験等
・取得資格,検定の内容・取得スコア・取得時期等
・表彰・顕彰等に係る各種大会やコンクール等の内容や時期等
(高大接続改革の一環として調査書の電子化について検討している)
なかでも「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価するために,面接,グループディスカッション,プレゼンテーションを活用することなどが考えられるが,とりわけ高等学校段階での新たな学びのプロセスや成果が蓄積されたeポートフォリオを活用したプロセス評価型の大学入試が今注目されている。
先日,公益財団法人日本進路指導協会理事の千葉吉裕先生から,大学入学者選抜改革推進に向けた先進的な取組について聴く機会を得た。それは関西学院大学が,広島大学,早稲田大学など国立・私立大学計7校の代表となり,文部科学省の委託事業「高大接続改革で重視する学力の3要素の中の「『主体的に多様な人々と協働して学ぶこと(主体性・多様性・協働性)』を評価するための調査・研究・開発」,「高校段階でのeポートフォリオとweb 出願ポータルサイトとの連携システムの構築」を進めているというものである。
◎高校生活の活動を記録し振り返りができるeポートフォリオ
生徒が,パソコンやスマートフォンを使って,高校生活における活動を記録するサイトで,志願を受けた大学側も入試時に参照することができる。さらに大学入学後の指導ができるよう工夫している。
- 生徒自身が「学びのデータ」として,学校の授業,探究活動や行事,部活動での学び,ボランティア活動や取得した資格・検定・表彰,留学,学校以外の活動の成果を記録して,eポートフォリオとして情報が蓄積されるとともに,このデータを大学入試の出願時に利用できる。
- 先生方も生徒の「学びのデータ」を閲覧でき,面談前や年度末に,生徒とともに内容を確認し,振り返ることで,継続的な「主体的な学び」に向けた指導に役立てることができる。
- 大学側の入学者選抜での次のような活用方法について検討している。
・評価基準を定め得点化 ・出願資格として活用
・学力検査の得点に加算 ・面接の補助資料として活用
2021年度の大学入学者選抜実施要項では,文部科学省で構築・運営する「高校eポートフォリオ」を活用することが必要となると考えられ,「主体性等」を評価するために,高校は調査書,推薦書,提出書類等をさらに充実させることが求められるのではないだろうか。
文部科学省の「高大接続改革」は,極めて速いスピードで進んでいる。今後,文部科学省で構築・運営する「高校eポートフォリオ」を活用することが必要となると考えられている。
しかし,高校,大学等の学校現場での意識改革は,まだまだ不十分であると感じている。未だにIT環境が整っていない地域や学校があり,必ずしも全ての高校生が公平にデータ活用できている訳ではない。環境作りも大きな課題の一つである。
同時に,学力の3要素の「思考力,判断力,表現力」や「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」に対しての評価尺度・基準,評価手法を確立し,大学教育における質の高い人材育成につなげていくことも急務である。
高大接続改革の推進に向けて,「高等学校」,「大学」,「大学入学選抜」の三者が今まで以上に連携,協力していくことが重要である。 (H・H)
(2019年2月25日)