教育研究所
№948「植物の形と進化」
1~2月といえば寒風が吹き雪も降る冬の盛りなのに,もうロウバイの花が咲き始めます(写真1)。黄色の花の色と香りが魅力のロウバイの名勝は,関東では神奈川県松田町や埼玉県長瀞町の宝登山(ほどさん)等が有名で,空気までが黄色に染まります。ロウバイは,葉が全く出ないうちに花のみが開花します。この様子はソメイヨシノに似ていますが,花の仕組みはかなり違います。
ソメイヨシノの花は,他のサクラと同じように外側からがく片5枚,花弁5枚,雄しべ多数(5の倍数),雌しべ1個と整然と並んでいます(写真2)。しかも,並び方はがく片の間に花弁が配置されています。5が基本になっていますので5数性の花と言いますが,5枚のがく片も花弁もそれぞれの一つの円を描いた線上(輪の線上)に着いています。また,がく片または花弁の形が,5枚ともそれぞれ同じような形をしていて統一性が取れています。
一方,ロウバイの花を外側から,茶色のがく片らしきものや,黄色の花弁らしきものをピンセットで1枚ずつ取って並べてみると(写真3),合計20数枚あります。がく片と花弁の中間のようなものがあり,がく片と花弁をはっきり分けることは難しいことが分かります。また,ソメイヨシノのように一つの円の上に,5枚のがく片や花弁が並んでいるという規則性も無いように見えます。さらに,がく片らしきものも花弁らしきものも,形と大きさも様々で統一性が取れてないように見えます。このようにがく片と花弁を区別できない場合は,がく片や花弁という呼称を止めて両方とも「花被片」と呼んでいます。
両者のこの違いは,何が原因なのでしょうか。それは,この地球上に登場した時代の違いが原因です。ロウバイはソメイヨシノより先に地球上に登場したために,ソメイヨシノより古い花の形態を持っているのです。古い時代に登場した花は,がく片と花弁の区別がないことが多く,形態も様々で統一されていないことがあります。また,がく片や花弁が一つの円の上に着かないでばらばらであったり,らせん状に着いていたりします。
しかし,ロウバイが古いと言ってもシダ植物(3.8億年前)や裸子植物(イチョウやスギ,マツなど~3,3億年前)よりは新しい時代の植物で,被子植物(種子が果実の皮などに包まれ保護されている植物~1,5億年前)の仲間です。ロウバイは,被子植物の中では古い時期に出現した原始的な仲間の一つで,クスノキの仲間に属しています。
原始的な被子植物の仲間には,この他にスイレン(写真4)やコショウ,モクレンなどがあり,裸子植物から進化した仲間たちと言えます。モクレンの仲間は,初春に開花するモクレンやハクモクレン,コブシ(写真5)などですが,雄しべ,雌しべがらせん状に着く(写真6)という原始的な形態を残していて興味深い仲間です。
最も新しく出現した植物(進化した植物)は,キキョウ(写真7)やヒルガオ(写真8)の仲間などですが,この仲間は,がくや花弁の基部が合着して筒状になるという特徴があります。
現在,世界には25~27万種の植物が生育していると言われていますが,4,0億年前の形態を残している植物もあれば,つい最近出現した大変進化した植物もあって,植物の形態の分析から新旧や進化を推し量るのは大変興味深いことです。ただ,現在世界に存在する植物の何倍もの植物が,4,0億年間に消えていったことを思い起こすと,感慨深いものがあります。
植物の分類は,18世紀頃から科学的に行われるようになり,現在まで植物の形態(形)を観察・分析し多様性と共通性を明らかにして,体系的な学問として築き上げられてきました。しかし,約30年前ごろから欧州の研究者のグループは,細胞中のDNA(遺伝子)を解析することにより,植物の形態だけでは不明なことまで明らかにするようになり,格段の進歩が起こっています。
このグループはAPG分類体系を提案しており,今までは単子葉植物と双子葉植物は同じ先祖から分かれて複線状に進化してきたと考えられていましたが,そうではなく,まず原始的な双子葉植物が出現し続いて単子葉植物が出現しさらに続いて進化した双子葉植物が出現してきたと提案しています。つまり,単子葉植物と双子葉植物は,単線状に進化してきたという新しい説を提案しています。この植物学の進歩は今後さらに大きく飛躍するであろうと思われます。
植物の形と進化については,小学校3~6学年,中学校1~2学年の学習に参考にしていただければ幸いです。 (Y・H)
(2019年2月27日)