連載 「改めて考えたい 小学校英語で大切にしたいこと」 第1回
ことばと心を育てる外国語教育を ①
文教大学教育学部(英語専修)
『小学校英語 ONE WORLD Smiles』代表著者
第四期中央教育審議会外国語専門部会委員
児童英語教育学会理事・日本実践英語音声学会理事
教材開発、および教員養成や教員研修、全国の現場への指導に広く携わる
主な著書・編書に
『主体的な学びをめざす小学校英語教育』(教育出版)
『小学校英語科教育法』『歌っておぼえる らくらくイングリッシュ』(成美堂)などがある。
〈ONE WORLD Smilesだより Vol.1 Autumn 2022より〉
「英語ぎらい」が生まれていませんか
小学校の外国語が教科になって3年が経とうとしています。指導法や教科書、デジタル教科書教材の活用においても、地域差や学校差が見られ、まだまだ試行錯誤の段階が続いていると言えそうです。
危惧されるのは、「読むこと・書くこと」が高学年で導入されたことで、語句や英文を読ませることや書かせることを急がせる傾向が見られることです。ペーパーテストとして評価しやすい「知識・技能」の指導が増え、単調なリピート練習が多くなり、「英語で表現する楽しさ」を十分に体験させられていない授業が増えているようにも感じられます。結果として、英語学習への興味が薄れ、苦手意識を持つ児童が生まれていないでしょうか。
改めて、小学校段階の外国語教育が目ざすところを考えてみたいと思います。
基礎となるのは「聞く力・話す力」の育成
まず、小学校の限られた授業時数や1クラスの人数を考えると、期待できるのは、あくまでも「基礎的な英語力の育成」ということです。外国語の習得は、簡単なものではないからです。
小学校では、言語習得理論およびこれまでの英語教育の反省に基づき、「音声としての英語に十分に慣れ親しみ、聞いたり話したりすること」が学習の中心です。そして、音声として慣れ親しんだ語句や英文を、文字として捉える基本を学ぶことが、小学校段階の英語教育です。それ以上は、中学校で本格的に学ぶということを押さえておく必要があります。教科書もこれに基づき、文字を頼りにしなくても、音声や映像によって「英語を理解する・しようとする力」を育てられるように構成されています。
小学校中学年から少しずつ英語の音声に慣れ親しむことで、音声受容語彙(音声として聞き取れる語句等)が多い、簡単な英語での発話活動等にも慣れているという点において、入学時の英語力に変化があるということは、中学校の英語教員からよく聞かれるところです。
「読むこと・書くこと」の能力は、子どもより大人のほうが効率よく身につくというデータもあります。教師や保護者が、単語テストやペーパーテストなどで目に見える成果を求めたくなってしまう気持ちはわかりますが、大学入学共通テストでリスニングの配点が2倍に、逆に、リーディングの配点が半分になっていることからもわかるように、小学校から高校までを通して求められているのは、文字言語としてだけでなく、音声言語としての英語力の育成です。長期的な視野で、英語力の基礎となる「聞く力・話す力」を十分に育てることを意識したいものです。
もちろん、文字に興味を持つのも自然なことですから、子どもの意欲や実態に合わせて段階的に指導していくことも大切です。あせらず、じっくり取り組みましょう。
「どんな児童を育てたいか」を持っていますか
小学校は民間の英語教室や塾とは異なります。授業を通して「どんな児童に育てたいのか」、小学校の先生であればその答えを持っているはずです。相手のことを思い、気持ちを込め、ことばを大切にしながら表現する「ことばの授業」。それが結果的に、英語力の育成にもつながっていくのです。