子ども主体の算数授業づくり
~子どもにとって価値ある「振り返り」を~
広島県三次市立十日市小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
子どもにとって価値ある振り返りとは
授業における「振り返り」は、子どもが自らの学びを解釈し、次の学びに向かうことができるようにするうえで、非常に重要な役割をもっています。本稿では、授業終末部の振り返りに焦点を当てて、子ども主体の算数授業づくりについて考えていきたいと思います。
そもそも、子どもにとって価値ある振り返りとは、どんなものなのでしょう。ある時、受け持った6年生の子どもたちに「振り返りは何のためにするの?」と尋ねてみました。すると、子どもたちの半数は、「わからない」と答えました。つまり、その子どもたちにとって、授業中の振り返りは、形式的で無意味な活動になってしまっていたのです。何も考えず、黒板の言葉を写して終わり。これでは、子ども主体の授業づくりをしているとはいえないですよね。
一方、もう半数の子どもたちからは、振り返りをする意味について、多様な答えが返ってきました。
・自分がわかっているかどうかを確かめるため。
・わかったことを整理して、深く理解するため。
・学んだことを次の学習に生かすため。
先ほど「わからない」と答えた子どもたちも、この回答には納得していました。「学んだことを振り返って、理解を深め、使えるようになる。そんな振り返りをしたいね」と、子どもたちと思いを共有することが、私が振り返りを変えていく第一歩でした。
「板書」と「対話」で振り返る
振り返りには、目的や子どもたちの実態に応じて、多様な方法があると思います。これから紹介するのは、子ども自身にとって価値ある振り返りを目ざし、子どもたちと試行錯誤する中で生まれた一つの形です。
私は授業終末部10分間程度で、次のような流れで子どもが振り返りを行う時間を設定しています。
(1)板書を見ながら授業の振り返りを行う
まず板書を見て今日の授業を振り返り、「今日の授業で一番大切だと思ったこと」や「これまでの振り返りを使えたか」などについて、ノートに書きます。
これまでの振り返りが使えたかを問うことで、振り返る意味や価値を感じやすいようにしています。
(2)端末を使って、振り返りを共有する
振り返りを書いた後は、ノートの写真を撮り、端末上で共有します。こうすることで、お互いの振り返りから学び合うことができるようにしました。
端末でノートの写真を提出(ロイロノートを使用)
(3)振り返った内容について教師と対話する
教師は、子どもの振り返りを読み、黒板の前から一人一人に話しかけ、簡単に対話していきます。
例えば、「図をかくことが大切だ」という振り返りをしていた子がいた場合、
T:どうして図をかくことが大切だと思ったの?
C:図がかけたら意味がわかって、式が立てられるようになったからです。
T:なるほど!図をかくと問題の意味がわかって、式もわかるのか。それはいい発見をしたね。
といった具合です。
教科担任制で毎日100名程度の子どもと算数授業をする私は、毎日全員のノートを丁寧に見る時間の余裕がありません。また、ノートの記述からだけでは、その子が何を学んだのか読み取れないこともあります。そこで、その場で振り返りの内容について簡単に対話することで、その子が大切だと感じている見方・考え方や学び方などを明確にし、価値付けていくことにしています。どんな内容であったとしても、それぞれの子の発見を教師が共に喜び、その価値をわかり合うことが、子どもたちが明日の授業を主体的に創っていくことにつながると考えています。
10分間で話せなかった子がいた場合には、次の時間はその子から話すようにするなど、一人一人との対話と価値付けは一番大切にしているところです。
(4)振り返った内容を板書に書き加える
子どもとの対話をとおして価値付けた内容は、教師が板書に書き加え、学級全体に共有化を図ります。
実践事例 6年「円の面積」
(1)教材について
円の複合図形の面積の求め方を考える時間を例に、実際の授業と振り返りの様子を紹介します。
この図は、「葉っぱ型」や「レンズ型」とよばれる図形です。この図形の面積を求めるには、いくつかの図形を組み合わせて考える必要がありますが、手順が多く、計算も複雑です。しかし、ここで大切なのは計算ではなく、初めて見る図形でも、「既習の図形を組み合わせる」ことで面積を求められることに気付くことです。授業後の子どもたちの振り返りに、この言葉が出てくることをねらって、授業を行いました。
(2)授業の展開
●「わかった!」「なるほど!」を生み出す仕掛け
授業前に、子どもたちにこのシートを渡し、好きな部分に色を塗らせて図形を作成させておきました。子どもたちが考えたのは、下の板書に掲示している①~⑥の図形です。これらの図形を用いて、授業を展開していきました。
授業では、まず6種類の図形を提示し、子どもたちに「面積を求めるのが簡単そうな順番」に並べ替えてもらいました。実際の授業では、子どもたちは下の板書にある①(簡単)~⑥(難しい)の順に図形を並べ替えています。(①~③は既習)
その後、①から順に面積を求めていくのですが、途中でおもしろい反応が見られました。教室のあちこちから、何度も「あ!」「わかった!」という小さな声が上がったのです。
●「なるほど!」から「だったら!?」へ
何が「わかった」のか尋ねると、わからなかった④の面積の求め方がわかったそうです。その子に考え方のヒントを出してもらうと「④は、①と③でできる」とのこと。それを聞いた他の子たちも、「なるほど!」と納得の様子です。その後全員で「①-③=④」(①から③を取った形が④)であることを共有すると、さらに「だったら⑤もできる」「⑥もできる。ほら、③と②で...」と、騒ぎ始める子どもたち。④が①-③でできることを発見し、既にわかっている図形を組み合わせることで、未知の図形だった⑤、⑥の図形の面積も、同じように求められることに気付くことができました。
こうして、図形に番号を付けたことで、③-②や②-④など、番号で簡単に組み合わせ方を表現することができました。図形の組み合わせ方のみに焦点を絞り、その考え方に価値を感じる展開をつくることができたと思います。
(3)この授業での振り返り
この授業での振り返りの様子を紹介します。
T:〇さん、『いつもと同じように』ってことは、前にも知っている形にしたことがあったってこと?
C:円の面積とか、三角形とか、全部知っている形に戻して考えたじゃないですか。その時です。
T:そうか、『今回も』それが大切だと思ったんだね。
C:はい。『今回も!』ですね。
子どもによって内容や表現は異なりますが、この授業では「図形を組み合わせること」や「どんな図形がもとになっているか考えること」が大切だと振り返っている子が多く見られました。
子どもたちの変化
この振り返りの方法を始めて1か月が経つと、それまで形式的に振り返りを書いていた子どもたちも、ほぼ全員がその授業で一番大切だと思う見方・考え方や学び方などを自分の言葉で表現できるようになりました。これは、子どもたちが、教師との対話を通して、自分が見つけた見方・考え方を意識し、そこに価値を感じることができたからだと思います。
また、自分と教師の対話だけでなく、友だちと教師との対話を聞くことが、「勉強になる」という子や、端末を用いて、お互いの振り返りを読んだり参考にしたりする子が次第に増えていきました。
振り返りの時間が自分の学びを解釈するだけではなく、友だちの振り返りの内容や目のつけどころについて学ぶ時間へと少しずつ変化していったように思います。子ども主体の授業づくりを目ざして、これからも試行錯誤を続けていきたいと思います。