先生も生徒も楽しみになる道徳科授業づくり
~実践記録の蓄積と共有~
愛知県半田市立青山中学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
はじめに
以下の❶~❸に心あたりのある先生はいませんか?また、お隣の先生はいかがでしょうか?
❶ 「道徳教育」と「道徳の時間」(以下「道徳科の授業」)の違いを説明できない。
❷ 行事の直前直後の「道徳科の授業」を、「道徳的な学活」として行事の準備や指導にあてたことがある。
❸ 教科書・指導書を直前に開いて「1時間もつかな?」「どうやってまとめよう?」などと不安を抱きながら生徒の前に立つことがある。
かつての私は、全てあてはまっていました。教材研究や授業実践に苦労することは、教師の仕事としてなくならないと思います。しかし、必要な情報を得ることで教師の悩みが軽減したり、システムを工夫することで効率よく授業力を向上させたりすることは可能であり、結果的に生徒の道徳性を育むことに近づくことになると考えます。
ここでは、道徳教育推進教師として私が取り組んだ、校内の協力体制づくりと、実践記録の蓄積と共有の方法について述べます。
まずは「道徳教育の全体計画」と「年間指導計画」から
皆さんの学校では、❶で述べた違いを全ての先生が説明できますか? 目の前の授業で精いっぱいの先生がたの中には、「道徳教育の全体計画」や「年間指導計画」の意味を意識しないまま授業を行っているかたもいます。「教科書の掲載順に授業をする」「学校祭の前だからコレをやる」といった行き当たりばったりではなく、まずは学校として育てたい子ども像に近づけるための計画や案があるべきです。それが「道徳教育の全体計画」であり「年間指導計画」です。
教育活動全体(各教科・学活・行事・学校生活の全て)を通じて道徳性を育成するのが「道徳教育」で、その要としての役割を担うのが「道徳科の授業」です。ですから、前述❷の「道徳的な学活」は、「学活」として堂々と行い、道徳科の内容項目「集団生活の充実」は、「道徳科の授業」として「年間指導計画」に従って実践すべきでしょう。
遠回りでも大切な計画づくりは全校体制で
学習指導要領改訂の移行期間中に、本校では道徳教育の全体計画の見直しに取りかかり、3年かけて体制を整えました。
1年めは、本校の教育目標に見合った「道徳教育の重点目標」「各学年の重点目標」を整理しました。
2年めは教科書の使用が開始された年でした。この1年間は、教材は教科書のみで、実施時期も教科書の掲載順にしました。同時に、その実践を生かし、生徒の実態に合った教材や、本校の「年間指導計画」に沿った教材を各学年で検討しました。
3年めから新しい「年間指導計画」に従って実践を始めました。「年間指導計画」はこれで完成ではなく、常に検討の対象です。本年度も「よりよいものに変えるつもりで」実践と反省を重ねています。
効率よく授業力を向上する略案当番制
「道徳科は授業のねらいや方法が適切なのかわからず自信をもって授業ができない」「生徒の話し合いや思考を深める力が足りない」という先生が多くいると感じます。前述❸のような先生が自信をもち、授業実践を楽しめるようになるには、学年職員、全校職員の協力体制づくりが必要です。
「ローテーション道徳」は、一人当たりの教材研究の負担減と、経験値アップによる力量向上が期待できます。しかし、学校規模や時間割調整で実施が難しい場合もあります。そんな状況でも「略案当番制」なら実施可能かもしれません。各授業の略案を学年内で分担して作成するのが「略案当番制」です。本校では、担任を中心に、1年間の35時間を学年内で分担して「略案当番」を決めます。1学年5クラスなら、一人当たり7コマ分を担当することになります。実践の前週までに、当番の先生は略案を配付し、各授業者は、実践後に反省を朱書きします。当番の先生は、授業者の反省を生かして略案を修正してデータとして残します。これまで作成・修正してきた略案を校内のサーバーに保存しておくことで、次年度の略案当番は過年度の実践を参考にして提案することができます。
情報の蓄積と共有のための環境整備
先生がたが略案をとじ、記録し、蓄積するために「道徳ファイル」を配付しました。(写真①)
写真① 担任用「道徳ファイル」 1ページめには、ファイルの中身と授業前後にすべきことを載せました。
「道徳ファイル」は年度末に回収し、学年ごとに1冊のファイルにとじます。(写真②③)職員室内には「道徳コーナー」を設置して、過去に扱った教材や他の教科書会社の書籍とともに「道徳ファイル」も保管しています。これまでの4年間の実践を見ることができ、実践した授業者に直接助言をもらうこともできます。
写真② 実践記録をメモした略案。自分のためだけでなく、次に同じ教材を扱う先生のためにという思いもこめられています。
写真③ 板書の画像は、実践記録としてわかりやすく、実践した先生に質問や相談がしやすくなります。
成果と課題
職員室では、学年の枠を超えた道徳に関する会話が増えました。また、教育実習担当になった若い先生が、一人で抱えこまず学年職員や道徳教育推進教師、教務主任の協力を得ていました。担当教師の負担軽減と、実習生への適切な指導につながっているといえます。
年度初めに生徒に行った「道徳は好きか」というアンケートからも成果と課題を読み取ることができました。
「好き」の理由には、「友達の意見からたくさんの考え方に気づくことができる」「ふだん考えないことをじっくり考えられる」「どんな考えでも認めてくれる時間は他にはない」というものがありました。道徳科ならではの「答えが一つではないこと」は、「好き」「嫌い」どちらの理由にも見られました。このことから、先生がたが多様な意見を大切にしながら授業実践を積み重ねてきたことがわかります。
また、「嫌い」の理由からは、「授業のテンポが遅い」「話し合いが進まず不満」という、授業展開に不満をもつ生徒がいること、「何を質問されているのかわからない」「質問が難しく答えが出しにくい」という、発問の意図が届かないまま授業が進み、意欲をなくしている生徒がいることもわかりました。生徒の実態に合った教材や発問、ファシリテーターとしての教師の力量向上が課題といえます。
先生も生徒も授業を楽しみにできる学校にしよう
遠回りに思えるかもしれません。全校体制で取り組もうと声をあげることが難しい状況もあるかもしれません。しかし、生徒が「道徳科の授業が楽しみ」「結局どっちが正しいのか、まだわからない」「これからもっとこうしたい」「あんな生き方、憧れる」と目を輝かす姿を想像しましょう。きっと多くの先生がたは、協力してくれるはずです。