中学校数学:次は何を考えますか?
東京学芸大学附属世田谷中学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (中学校版) 2022年4月発行より〉
はじめに
本稿のタイトルの言葉に出会ったのは、大学2年の数学教育の授業でした。頭を悩ませる数学の問題が出題され、周りの学生と協力しながらもなんとか答えを出した矢先、その教授は笑顔でこう言いました。
『次は何を考えますか?』
大変お恥ずかしいのですが、当時の私には数学の問題というのは解くことがすべてで、「やっと解けたのに次と言われても......」と思っていました。
今は違います。
これに関連して、私が日々実践する中から授業のひと工夫として提案するのは次の2点です。
自分自身に問うてみよう!
例えば教科書のこの問題(教育出版2年p.31)を解いた後、先生方は、『次は何を考えますか?』
私なら思い浮かぶのは、「差」です。確かに教科書でも、「差」が9の倍数となることはこの後の練習問題として位置づいています。さて、他には何が考えられるでしょうか。私は他に次のことを考えました。
私は特に❶と❷に関心を持ちました。先生方も面白い発見がありましたら、ぜひ教えてください。
先の❶〜❹は、以下の命題の下線部に着目していると見ることができます。
「2桁❶の自然数と、その数の十の位の数と一の位の数を入れかえて❷できる数との和❸は、11の倍数❹になる。」
こうしてみると、命題として表すこと自体にもまた、重要な意味があると思えてきます。
例えば、生徒に
26+62= 41+14= 83+38=
と式だけ提示し、帰納的にこれらがどういう2数か、「和」にはどのような性質があるかを考えさせることから始めるのはどうでしょうか。「〜は(ならば)...である」という形式で述べることにより、「証明すべき対象が明確になること」「仮定や結論が顕在化されること」の他、「(命題として)明確に述べたことで、新たな問題を発見しやすくなること」を価値づけることができるのではないでしょうか。
そして、『次を考えること』によって、問題どうしの関係が見えてきます。例えば❶が3桁の場合を考えてみます。abcとcbaのように入れかえた和、すなわち、(100a+10b+c)+(100c+10b+a)のとき、共通因数でくくれず倍数は見えてきません。それでは、abcとbcaとcabという入れかえ方ではどうでしょうか。さらに、acbとbacとcbaも含めた3つの文字でできるすべての場合(6通り)の総和はどうでしょうか。これを探究してみると、結果的に今回の問題は「n桁の数の各位を"入れかえた"数の総和は、の倍数である」の特殊であるといった関係が見えてきます。
このように、その問題を解くことを超えて次を考えることにより、問題の様々な表情が見えて面白くなります。それが面白いと思う生徒になってほしいですし、命題を見た際に『次は何を考えるか?』と思う生徒になってほしいものです。私は「和」で考えてみましたが、「差」の方は生徒も探究しやすいと思います。
生徒に問うてみよう!
授業は以下の3つで構成しました。第一に、様々な例から帰納的に仮定と結論を明瞭に述べることです。手立てとして、「Aは(ならば)Bである」という形式を提示しました。第二に、文字式で証明することです。前時が文字式による説明の導入だったため、例を示すだけでは説明できたことにはならないことをクラス全体で確認しました。第三に、次は何を考えるかをノートに思いつく限り書くことです。板書のデータがないため、生徒のノートを示していきます。
先の表現の"入れかえる"にあたるところは生徒もどう言い表すか悩んでいました。あるクラスでは「逆数」と混同したり、「線対称数」という数(表現)を創造したりしましたが、どのクラスも教科書と似た表現が出て共有されました。
そして、ここで『次は何を考えますか?』と問いました。それまでにもよく問うてきていますので、「差にすると?」「3桁にすると?」「他の数のペアだったら?」とすぐに反応がありました。
時間もなかったため、各自でとにかく推測を書かせました。すると、2桁や3桁、4桁の「差」についてはすぐに証明をし始める生徒が多くいました。統一的に9の倍数となるので、探究したくなるのだと思います。
また、3桁の「和」の入れかえ方に悩む生徒もいました。授業全体としては「差」を中心に扱いましたが、3桁の「和」の場合も取り上げることで「こう並べると111の倍数になる」「だったら4桁だと1111の倍数になるのかな」と学びがつながりそうです。
他にも、上のような推測もありました。説明(証明)の際にx 、y は1桁の整数だという確認をしたので、そこに着目し「一桁じゃなくて良い」としています。例えば57+75の和は132ですが、132を120+12=12×10+12×1と見ると、132は(ヒャク、サンジュウ、ニ)としてではなく、(ジュウニジュウ、ジュウニ)と言い表せるため、自分自身に問うてみよう! にもあるような26+62=88(=8×10+8×1)や41+14=55(=5×10+5×1)などと統一的に見ることができます。
おわりに
示してきた例は少し発展的すぎるかもしれませんが、いずれにせよこのような準備をして、生徒が数学する様子を見守りたいと思います。生徒においても、「差」にしてから桁数を増やしていくことで、「桁数を増やしてもいつでも9の倍数になるのかな?」という問いは自然と現れていました。あくまで発展ですので、何をどこまでやるかは先生方の目の前の生徒たちと決めることかと思います。こうして、『次は何を考えますか?』と問いながら自分も生徒も数学を楽しんでいくことができたらいいなと思っています。さて、先生方、
『次は何を考えますか?』