小学校理科: 「理科の学びにくさ」から考える教師の支援
広島大学附属東雲小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
はじめに
先生方は、普段、授業をどのように構想されますか? おそらく、児童の実態や、授業で取り扱う素材特性などを踏まえ、目標を設定するとともに、具体的な指導法を検討しておられると思います。その際、児童の実態をひとくくりにして捉えがちではないでしょうか。しかし、学級には様々な特性をもった児童が存在し、一人一人の抱える「学びにくさ」は異なります。本稿では、「理科の学びにくさ」を起点に、具体的な支援の在り方について検討していきたいと思います。
予想場面における学びにくさ
予想場面では、①「予想はできるが、根拠を考えることが難しい」、②「何が確からしいのか判断できない」、③「考えはあるが、うまく文章で表すことができない。または、自分の予想に自信をもてない」などの、学びにくさを感じる児童がいることが想定されます。これらの児童に対する支援として、以下の3点を紹介します。
① 予想材料の共有
「予想材料」とは、予想の根拠として使える材料のことであり、「既習事項」や「日常経験」が挙げられます。個人予想に入る前に、これらの予想材料を全体で共有する場面を設定することが、根拠を伴った予想を立てるための支援になると考えます。
② 確からしさを判断する基準の共有
予想の妥当性を判断することは、児童にとって、とても難しい活動です。そのための手立てとして、「確からしさを判断する基準」を全体で共有することが有効だと考えます。まずは、予想モデルについて納得できるかどうかを選択します。そして、予想モデルの「確からしさ」を考える活動を通して、「確からしさを判断する基準」を全体で共有します。基準は、「理由が書いてあるか」「問題に対する予想になっているか」「これまで学んだことから理由を考えているか」「日常経験から理由を考えているか」などが挙げられます。これらの基準を共有することで、基準に基づいた妥当性の吟味を行うことができると考えます。
4人が「かがみではね返した日光を重ねたときの温度の変化はどうなるのだろうか」という問題について、予想を話し合っています。
メンバー |
考え |
Aさん |
かがみではね返した日光を重ねるほど、温度が高くなると思うよ。なんとなくそう思ったの。 |
Tさん |
かがみではね返した日光を重ねるほど、より明るくなると思うよ。だって、光の的当てゲームを行ったときに、かがみではね返した光を重ねるほど、より明るくなったから。 |
Kさん |
日なたと日かげでは、日なたの地面の方が、温度が高かったよね。なので、かがみではね返した日光を重ねるほど、温度が高くなると思うよ。 |
Hさん |
日差しが強い夏の方が、日差しが弱い秋よりも日光を熱く感じるよ。かがみではね返した光を重ねるほど、より明るくなると思うから、明るくなった分、温度も高くなるのではないかな。 |
③「悩み中」を認める交流場面の設定
予想場面では、「悩み中」の児童を認めることが、とても重要なことだと考えます。「悩み中」の児童にも「2つの選択肢で迷っている」「そもそも予想がもてない」など、悩んでいる児童一人一人に着目すると、その実態は様々です。「悩み中」の児童の考えを表明することにより、その他の児童が「自身の考えに納得してもらうには、どのように説明すればよいか」という視点をもつことができます。つまり、「悩み中を認める交流場面」を設定することにより、「理科が得意な児童」にとっては、納得してもらうための説明を考えることにつながり、「理科が苦手な児童」にとっては、理科が得意な児童の考えを参考に自身の考えを見直すことにつながります。つまり、「理科が得意な子」「理科が苦手な子」双方の学びの保証につながる可能性があると考えます。
実験観察場面における学びにくさ
実験観察場面では、①「実験の手順が理解できない」、②「何に注目して実験すればよいか分からない」、③「何に注目して観察すればよいか分からない」などの、学びにくさを感じる児童がいることが想定されます。これらの児童に対する支援として、以下の3点を紹介します。
① 視覚支援を用いた実験方法の説明
実験方法の確認場面において、実験手順を読んだり、聞いたりするだけでイメージをもつことができない児童に対しては、実験器具を使用した演示など、「視覚支援」を取り入れた説明を行うことが有効な手立てになります。その際、実験動画を用いると、画面を示しながら説明したり、重要な箇所で止めたりしながら説明を行うことができるため、さらに効果的です。
② 実験結果の見通しの共有
実験場面において、何に注目して実験してよいか分からない児童に対しては、「結果の見通し」をもたせることが有効な手立てになります。予想が正しければ、どのような結果になるか、つまり「結果の見通し」をもつことで、実験のどこに注目すればよいかが明確になります。
③ 観察の視点の共有
観察場面において、何に注目して観察してよいか分からない児童に対しては、「観察の視点」をもたせることが有効な手立てになります。観察の視点を導出する際に、まずは児童の素朴な考えを表出させます。次に、共通点や差異点を整理します。そうすることで、素朴な児童の考えをもとに具体的な「観察の視点」を導出することができます。
考察場面における学びにくさ
考察場面では、①「考察に何を書いてよいか分からない」、②「実験結果をどのように解釈したらよいか分からない。または、文章で考察を表すことが苦手」などの、学びにくさを感じる児童がいることが想定されます。これらの児童に対する支援として、以下の2点を紹介します。
①「主張→根拠」を意識した考察
考察場面において、何を書いてよいのか分からない児童に対しては、「主張→根拠を意識した考察」を行うことが有効な手立てになります。実験結果から何がいえるのか、つまり結論を学級全体で共有したあとに、根拠となる実験結果の解釈を個人で考えさせます。「主張(結論)→根拠(実験結果)」の順に考察を行うことが、結論を説明するための実験結果の解釈につながります。
② 結果を解釈する視点の提示
考察を行う際に、最も難しいのが「実験結果の解釈の仕方」だと考えます。実験結果を適切に解釈することができない児童に対しては、「結果を解釈する視点を提示すること」が有効な手立てになります。具体的な例を挙げると、「全体の結果」を踏まえること、対照実験の結果をどちらも記載することなどが挙げられます。全体と傾向が異なる結果が出てきた際は、その結果に関する解釈も必要になるかもしれません。
このように、「結果を解釈する視点」を複数提示することにより、「記述が得意な児童」は、「多くの視点」に基づいて、「記述が苦手な児童」は、「視点を絞って」考察を記述することができると考えます。
おわりに
ご紹介した、3つの問題解決場面における支援の中には、先生方が普段の授業で行っているものもあったのではないかと思います。「学びにくさ」という視点から自身の実践を見直すことが、学級の児童一人一人の特性を踏まえた授業を構想するきっかけになるのではないかと思います。
本稿が、先生方が理科授業を構想される際の一助となれば幸いです。
引用・参考文献
玉木昌知(2020)「季節と生物(特に、植物の成長と季節の関係) ―「予想ボード」を活用した、対話的な学びを促進し、深い学びを実現するための具体的手立てについて―」『主体的・対話的で深い学びの理科学習指導のあり方』日本教材文化研究財団、pp.21-28.
古石卓也(2021)「理科授業における教師の支援の実際」『広島大学教育ヴィジョン研究センター定例オンラインセミナー講演会No.92 教科教育学・心理学・日本教育学の視点からインクルーシブな学びを考える』発表資料.