中学校理科:既習事項を活用しワクワクする探究的学習
お茶の水女子大学附属中学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 2023年4月号より〉
はじめに
中学校学習指導要領(平成29年告示)解説理科編の目標には「自然の事物・現象に関わり,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(以下略)」とあります。私は、科学的に探究するための資質・能力を育成するためには、科学的に探究する学習体験こそが重要と考えます。そのためには、生徒が自ら見通しをもって計画できる知識・技能をもち、それを活用できる状態であること、また、主体的に探究を推し進めるワクワク感が生じるような場面設定が大切だと考えます。本稿では、第1学年の粒子の領域での探究的な学習の実践例を紹介します。
第1学年「身の回りの物質」での探究
教育出版の現行版教科書では「1章 さまざまな物質とその見分け方」「2章 気体の性質」「3章 水溶液の性質」「4章 物質の状態変化」と単元構成され、物質の基本的な内容を学習します。その後に「気体の種類を見極める」という探究的な学習の課題を設定することにしました。この課題は主に2章と4章で学習した知識・技能と関連づけたり、組み合わせて考えたりすることを想定しています。
具体的な授業展開
《授業前》
①気体
風船と試験管(ねじ口試験管)に、酸素あるいは二酸化炭素を入れ、風船の口に試験管をつなぎます。接続部分はパラフィルムで補強します。異なる色の風船を用いることで区別できるようにし、試験管にA、Bと書きます。班にどちらか一方が割り当たるように準備します(図1)。班の数が少なく、一班にA、B両方を割り当てることが可能であれば、そのようにします。ここでは班の数が多い例で紹介します。
図1 気体の準備
②資料
水素、窒素、酸素、アンモニア、二酸化炭素の融点・沸点の表と、温度と状態の関係を図に示したものをワークシートに【資料】として記載し、配布します。【資料】は、教科書のp.133表1(図2)を参考にして作成しました。
図2 さまざまな物質の融点・沸点(教科書p.133 表1の一部)
③液体窒素
教師用にガラス製のジュワーびんを、各班に発泡スチロール製のクーラーボックスを用意し、それぞれに液体窒素を入れます。
④気体確認に必要なもの
マッチ、燃えさし入れ、線香、石灰水(使用直前にろ過したもの)、リトマス紙、ピンセットなど。
《授業》
<導入>
教科書p.133表1には「さまざまな物質の融点・沸点」が示されています。この表には、融点と沸点の値が示されているだけではなく、約-200℃から3000℃のどの温度帯でどのような状態なのかが色分けされていて、考えやすくなっています。私たちがふだんの生活で目にしている固体の鉄や銅が、1000℃や2000℃を超える高温になると液体や気体に変化することが読み取れます。同様に、液体のエタノールやメタノールは熱湯で温めれば気体に、-115℃以下にすれば固体になること、気体の窒素や酸素も-200℃近くまで冷やすと液体に、さらに冷やしていくと固体になることが読み取れます。この表をきっかけにして、物質の状態変化の学習を想起させて授業を開始しました。
<課題提示>
ガラスのジュワーびんに液体窒素を入れると、沸騰して泡が出ている様子が見られます。この段階で、生徒の学びに対する期待感が生まれ、「先生、花を入れてみたい」との声があがります。希望者の中から代表者を一人選び、バラなどの花を液体窒素に入れ、花弁を粉々にしてもらいます。この光景を見て、生徒の気持ちはさらに高まります。ここで、花は何℃に冷やされたかを問いかけます。教科書の表1から、沸騰している液体窒素の温度は、窒素の沸点である-196℃だと気づき、液体窒素に入れると-196℃に冷却されることを確認します。
図3 花の冷却
A、B2種類の気体を提示し、A、Bは【資料】のうちの水素、酸素、アンモニア、二酸化炭素のいずれかであると伝えます。これらの気体を液体窒素に入れて冷やしたときの様子を観察し、気体が何かを推測し、その気体を確認する実験を計画・実施して物質を確定するという課題を提示しました。
<展開1>
奇数班はA、偶数班はBのように、気体を割り振り、隣り合う奇数・偶数班でペアを作ります。
まず、自分たちが担当している気体が入った試験管を液体窒素で冷やしたり、空気中で放置したりします(図4)。その過程での物質の変化や、冷えたときの状態から、気体が何かを【資料】をもとに推測します。次に、ペアの班どうしでA、Bを交換し、液体窒素で再度冷やして様子を観察し、気体が何かを推測します。
図4 各班での気体の冷却と放置の様子
<展開2>
試験管を元の班に戻し、担当している気体について、推測した気体であることを確認する方法を班で相談します。方法が決まったら、確認実験の準備をします。風船を外して、試験管内の気体について、確認実験を行います。このとき、ペアの班にも声をかけて、一緒に結果を確認します。
酸素は-196℃では液体になります。液体の酸素はやや青みを帯びていて、磁性をもちます。見た目だけでも見当はつきますが、試験管内に火のついた線香を入れ、激しく燃えることで確認できます。
図5 液体の色や線香で物質を確認している様子
二酸化炭素は冷却途中で白い粉状の固体に姿を変えるので、生徒は液体を経ずに固体になる凝華を目の当たりにします。凝華したことから、二酸化炭素と見当がつき、試験管内に少量の石灰水を入れて振り、白く濁ることで二酸化炭素と確認できます。
《注意点》
液体窒素を用いると常に窒素が気化し、空気中の酸素濃度が相対的に下がってしまいます。換気には十分注意し、常に新鮮な空気が入るようにします。また、液体窒素は凍傷を起こす危険があるので、直接触れないように注意させます。軍手は液体窒素がしみ込んで大変危険です。本探究では、試験管を木製の試験管ばさみで挟んで気体を冷却させました。
気体の候補に入れた水素は、-196℃では気体のままです。風船の体積は小さくなりますが、状態変化は起こりません。冷却時の様子から、4種類の気体の中で水素と見当がつきます。水素はマッチの火を近づけて可燃性があるかどうかで調べられますが、風船の中の気体も含めるとかなりの体積となるため、大きな爆発の危険性があります。そのため、本探究では水素を用いませんでした。また、アンモニアは確認実験を行う前に、においで判別できること、目やのどの粘膜を傷つける危険性があることから、本探究では用いませんでした。窒素も候補にすることが可能ですが、窒素であることを確認する方法が難しいため、本探究では適切ではないと考えました。以上のことから、本探究のA、Bの気体には酸素と二酸化炭素がふさわしいと考えました。
まとめ
本探究は、液体窒素を使うためワクワク感が高まるという特徴と、学習した内容を想起し、それらと関連づけて科学的に思考し実験できるという特徴があります。既習事項を活用することで、生徒どうしの話し合いが進み、目的意識をもって実験することができ、さらに展開1、2の結果をもとに推測と確認という段階をふんだ考察を行うことができます。このような探究の体験をとおして、探究に必要な資質・能力を育成し、探究の原動力となる科学への興味・関心を醸成したいと考えています。
【引用文献・参考文献】
・文部科学省:『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』 平成29年7月(令和3年8月一部改訂)
*この記事の実践例では液体窒素を用いております。液体窒素を用いると常に窒素が気化し、空気中の酸素濃度が相対的に下がってしまいます。室内に、常に新鮮な空気が入るよう、換気には十分ご注意ください。また、液体窒素は凍傷を起こす危険があるので、直接触れることがないように十分ご注意ください。