小学校国語:TikTok・ゲームで知らない大人とやりとりする子どもたち
ITジャーナリスト・成蹊大学客員教授
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (小学校版) 2021年9月発行より〉
GIGAスクール構想によって、多くの学校で子どもたちに一人一台タブレットやパソコンなどの端末が行きわたった頃ではないでしょうか。学校でもタブレットやパソコンを利用することがあたりまえとなってきましたが、家庭では子どもたちは日常的に使っています。子どもたちの利用実態とトラブル、対策、指導方法までを解説します。
ネット接続端末を持ちSNSも使う小学生たち
内閣府の「令和元年度青少年のインターネット利用環境実態調査結果」(2020年3月)によると、小学生のインターネット利用率は86.3%に上ります。まだ自分のスマホを持っているわけではなくても、多くの子どもが中古のスマホやタブレット、ゲーム機などでネットを利用しています。つまり、ほとんどの子どもたちには家庭で自由にネットへ接続できる環境が整っているのです。
今の小学生は幼い頃からYouTubeに慣れ親しんでおり、スマホを持ち始める中学年前後からはLINEで保護者や友達とやりとりを始めます。文章でのやりとりがうまくいかず、友達と仲違いをしたり、いじめにつながったりすることもあります。
また同時期くらいからは、TikTokに動画などを投稿する女児も現れます。男児はSNSではありませんが、Nintendo Switchやスマホなどを使いバトルロイヤル系ゲームで知らない人とプレイしています。小学生でも、主体的にSNSへ動画などを投稿したり、知らない人とも交流したりしている実態があるのです。
注:「インターネット利用率」は、回答した青少年全員をベースに集計。
出典:内閣府ホームページ「令和元年度青少年のインターネット利用環境実態調査結果」
エルサゲートから危険チャレンジ系動画まで
ここからは、子どもたちが利用しているサービスと具体的なトラブルをご紹介していきましょう。
小学生には、YouTubeの人気は絶大です。前述のように自由にネットへ接続できる環境があるため、家庭では好きな動画を見ています。テレビに出演するタレントよりYouTuberに憧れる子どもや、将来YouTuberになりたいと考える子どもも少なくありません。
YouTubeには、エルサゲートと呼ばれる子どもに不適切な動画が投稿されていることがあります。子どもが意図せず、このような動画を見てしまうこともあります。また、YouTuberの真似事をして動画を投稿し、その結果、炎上してしまう子どももいます。炎上した結果、個人情報が特定され、ネット上にさらされているのです。
過去には、危険なチャレンジ系動画が流行したことがあります。2019年には米ミシガン州の12歳の少年が、可燃性の液体を体に塗って火をつける「ファイアチャレンジ」動画を見て真似したところ、上半身に2度の火傷を負いました。YouTubeではこのような危険チャレンジ系動画の投稿は禁止されましたが、TikTokで危険チャレンジ系動画を投稿したり、Instagramで「いいね」が欲しくて危険な自撮りに挑戦したりしてしまう子どももいます。
TikTokで誘拐・性被害につながる例も
小学生女児の間ではTikTokが流行中です。筆者の子どもは小学6年生ですが、2年前くらいから同級生の女の子たちが、公園でスタンドに立てたスマホでTikTok動画を撮影している様子を目にしています。小学5年生の時には、20名近い女の子たちが利用していました。お互いにコメントをし合っているうちに喧嘩に発展し、アカウントの通報合戦になっていたそうです。中にはアカウント停止処分を受けた子どももいました。このように、子どもたちは動画共有サービスに慣れており、閲覧だけでなく投稿に抵抗がない子も少なくありません。
TikTokは人気の音楽を使い流行っている振り付けを真似するだけでいいため、発信したいことがない小学生でも投稿できます。しかもAIでそのような動画を好む人に表示されるため、フォロワーが0でも他のSNSより「いいね」が集まりやすくなっています。つまり投稿の敷居が低く、自己承認欲求が満たされやすいため、人気となっているのです。
一方で、警察庁の「令和2年における少年非行、児童虐待および子どもの性被害の状況」によると、加害者と未成年の被害者はSNSを通じて出会っていることがわかっています。最多はTwitterですが、InstagramやTikTokでも事例があり、小学生の被害が増えています。
2020年8月には、34歳の男がTikTokで知り合った小学5年生の女児を呼び出し、女児が会うのを嫌がると「住所を知っている」「家の前で死ぬよ」と脅迫しました。男は女児を無理やり呼び出した上でわいせつ行為をし、強制わいせつ容疑で逮捕されています。
出典:警視庁ホームページ「なくそう、子供の性被害。」統計データ
ゲームで親しくなり誘拐事件に発展も
問題はSNSだけではありません。主に男児の間で、バトルロイヤル系ゲーム(「フォートナイト」や「荒野行動」など)が流行しています。
これらのゲームは小学生の間で人気のNintendo Switchで無料ダウンロードできるほか、スマホやタブレット、パソコンでも利用できます。ボイスチャット、つまりインターネット上で音声のやりとりができる機能がとても人気です。オンラインでつながっておしゃべりしながら対戦できるため、一斉休校中にも友達と待ち合わせをして遊ぶ子が多数いました。
友達同士でつながって遊ぶだけなら問題はないのですが、設定によっては知らない人とつながり、ボイスチャットをしながらプレイできます。話しているうちに個人情報を漏らしてしまったり、親しくなって誘い出されてしまったりする事件があい次いでいます。
2019年末には、小学6年生の女児が35歳の男に誘拐される事件が起きました。二人がやりとりに使ったのはTwitterのダイレクトメッセージ(DM)でしたが、知り合ったきっかけはオンラインゲームだったと言われています。知らない相手とやりとりできるSNSのDMも問題がありますが、多くの子どもが遊んでいるゲームも入り口となっているのです。
多くのサービスでは小学生は「対象外」
実は、小学生の間で人気のYouTubeやTikTok、Twitter、Instagramなどはすべて13歳以上を対象としたサービスです。「フォートナイト」や「荒野行動」も15歳以上対象のサービスです。つまり、どのサービスも小学生は対象外にもかかわらず、利用して被害に遭ってしまっているのです。
そこで、子どもの被害が続くInstagramやTikTokなどは対策を始めています。例えばTikTokは年齢登録が必須となり、13歳以下は登録できなくなりました。16歳未満のアカウントは初期設定で非公開となり、おすすめとして知らない人に表示される機能も初期設定はオフとなっています。しかし、年齢を偽れば登録できる上、これまで利用していた子どもはそのまま利用できます。また、設定は変更できます。Instagramでも成人からフォロワーではない18歳未満のユーザーへのDMを禁止していますが、フォロワーになるとやりとりは可能です。
保護者への情報提供と子どもへの教育が大切
最近の子ども間のトラブルには、SNSやゲームが絡んだものが増えています。トラブルになった時には学校に相談が持ち込まれますが、スマホを持たせるのも制限できるのも保護者だけです。
一方、保護者世代は情報リテラシーについて学んでいない世代であり、知識やリテラシーなどが高くありません。フィルタリングサービスは義務化されているにもかかわらず、子どもに請われるままに解除してしまうケースもあります。また、ペアレンタルコントロール機能などを使えば、子どもの利用時間や課金などの制限ができるにもかかわらず、知らない保護者は多くいます。保護者会などでこのような利用実態やリスクを伝えたり、保護者ができることを伝えたりするとよいのではないでしょうか。
子どもたちに対しては、利用していることを前提に危険性と、してはいけないことを伝えてください。個人情報を出しすぎないこと、ネットで知り合った人と会わないこと、写真などを送らないこと、困ったら保護者や学校に相談することなどを教えてあげていただければと思います。