中学校国語:国語科におけるICT機器の活用について
船橋市立海神中学校教諭
〈中学教科通信 2021年5月号 ウェブ版より〉
はじめに
船橋市では小中学校の各教室(一部の小学校1・2年生を除く)に、タッチパネル式の電子黒板が設置されています。また、実物投影機も各教室に備え付けられているために、紙の資料を拡大して提示することができるほか、書写の授業で指導者の手元を映して見せることも可能となっています。そしてGIGAスクール構想の実施に伴って、令和2年度末から本校では生徒1人につきChromebookが1台ずつ導入されました。
こうしたICT機器や端末の整備が行われている一方で、それを授業にどう生かしていけばよいかは各教科担当に任されています。指導者がICT活用に対して積極的であるか否か、機器の扱いが得意であるかどうかにより、二極化が進みかねない状況があります。特に国語科においては教科の特性もあり、その傾向が顕著であると言ってよいでしょう。
現在まで積み重ねてきた授業実践の中にICT教育を入れる余地を考える、ということでは指導者側の負担も増え、混乱も避けられません。導入に向けては、指導者にとって効率的であり、生徒にとって効果的である方向性を目ざしていくのがよいでしょう。評価にかかる時間を短縮し、生徒個々の力を伸ばすことを目ざしたアイディアをいくつか提示したいと思います。
話し合いやプレゼンテーション作りのアイディア
生徒同士の対話的な授業を目ざす際、これまでも課題としてあげられていたことがあります。一つは討論や話し合いの形式を取ったときに、テーマに対する考えはもっているのに引っ込み思案になってしまう生徒がいるということです。もう一つは発言をせず、また何も考えずに話し合いの場にいるだけの生徒がいるということです。両者を表舞台に引っぱり出す方法がなければ、対話的な授業で得られるものは少ないと言わざるを得ません。また、教室内で小グループを作ると話し合いが同時に行われるため、その時間の生徒個々の活動をどう評価するかについても課題は残ります。
これらを踏まえ、ロイロノート・スクールを活用して話し合いを行う実践例を紹介します。
実践名「辞書の編集者になろう」 |
概 要 |
❶ クラスを4~5人のグループに分け、それぞれに辞書の見出し語を割り当てます。たとえば全グループに定義が人によって分かれる「平和」を割り当てたり、それぞれの意味の違いがわかるように全グループに「恋」と「愛」を割り当てたりすると、興味をもって進めることができます。 ❷ 割り当てられた見出し語の意味と用例を個々の生徒が考えてロイロノートのカードに書き込みます。この時、カードに生徒各自の色を割り当てておくと評価の際に便利です。 ❸ 各グループのリーダーは、メンバーのカードを横に並べて意見を共有します。 ❹ それぞれのカードの下に、書いた意味や用例の良い点やわかりにくい点、付け加えなどをカードにして貼っていき、グループごとに総括してわかりやすい語釈を作ります。 |
この実践では話し合いの内容と経過が可視化されます。指導者の端末から各グループの話し合いの様子を確認できるため授業中に助言しやすく、どの生徒が意見を出したかわかるため授業後に評価をする際にも効率的です。
読む力をつけるためのICT活用
私は中学2年生を担当すると、「レモン哀歌」(平成28年度版まで収録教材)を扱うのと前後して、授業ごとに1篇ずつの詩を生徒に読ませています。生徒の反応も良く、難解な表現を含む作品も含めて数多くの詩にあたることで、自ら問いを立てて読む姿勢が身につくからです。
以前までは現代詩の中から生徒に読ませたい作品をピックアップしてプリントを作成し、毎回の授業で配布し、朗読するという手順をとっていました。しかし、生徒に1台ずつの端末があることによって、作品提示や鑑賞文を書かせることについても効率が大幅に上がりました。以下に具体的な方法をまとめます。
実践名「主体的な詩の読み手になるために~現代詩サロンに参加しよう~」 |
概 要 |
❶ 授業の最初の5分程度を「現代詩を読む時間」とする。G Suite for Education※ のGoogleドキュメントを用い、生徒の端末に詩を表示する。 ❷ 指導者が朗読し、生徒は一言感想や疑問点をドキュメントの2枚目に書き込む。 ❸ 他のクラスともファイルを共有し、いつでも追加で書き込めるようにする。 ❹ 1ヶ月の間に紹介した12~15篇の詩の中から1つを選び、他のクラスの生徒と交流した内容も踏まえて、鑑賞文を書いて提出する。 |
授業で教科書に掲載されている詩を扱う場合、言葉の意味を正しく理解し、比喩やその他の表現技法について学び...といった手続きを踏んで進めることが多いことでしょう。しかしこの実践の場合は、正しい読解を求めるというよりは、自分達でテーマや疑問点を出し、それに対する考えを表明することで主体的な読み手を目ざすという部分にねらいがあります。したがって、選定する作品については萩原朔太郎、田村隆一、吉岡実、入沢康夫、安東次男、鮎川信夫など、生徒が「背伸び」して読みたくなる詩人を選ぶと、より興味関心を高められると実感しています。
また、今までこの実践では、気に入った詩を1つ選んで詩ごとにグループを作り、疑問点について意見を交流してから鑑賞文を書かせていました。しかし、生徒ごとに興味をもつ詩に偏りがあるため、人数にも話し合いの深まりにもばらつきが生じていました。しかしファイルの共有が可能になったことで、より多面的な読解が可能になりました。
生徒からの質問および感想の集め方について
授業にはその都度「本時の目標」を設定して臨みますが、実際に生徒が何を学んだかについては文字にさせておくのが望ましいです。新しい観点別評価、特に「主体的に学習に取り組む態度」については、自らの学習を調整しようとする側面や粘り強い取組を行おうとする側面を測るため、なるべく多くの評価材料が必要になるからです。
例えば毎回の授業についてG Suite for EducationのClassroomで「今回の授業で学んだこと、考えたこと」といった内容で毎回課題を出しておき、次の授業までに提出させるようにすれば、評価やフィードバックに役立ちます。また個別の質問にも答えやすくなります。生徒にとっても内容を定期試験前などに見直せれば、学んだことを自分で振り返ることもできます。
支援を要する生徒への対応と、授業についていけない生徒を出さないための工夫
GIGAスクール構想のGIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allの略語です。つまり、全世界的かつ革新的な入口が全ての生徒に対して開かれていなければなりません。したがって新しい取り組みをする中で、ICT機器や端末の取扱いについていけなくなる生徒を出さない工夫が必要になります。またその上でインクルーシブ教育の視点からは、今まで学習に対して困難を抱えていた生徒の支援としての機能も求められているとも言えます。デジタル教科書を使用したいくつかのアイディアを以下にあげます。
❶ 電子黒板にデジタル教科書を表示し、授業で現在取り組んでいる部分を選択、拡大表示する。 ➡読むこと、聞くことが苦手な生徒に視覚的に訴えることに加え、集中力を欠きやすい生徒にとっても、学習内容に戻ってこられる仕組みがあるのは有効です。「◯行目に線を引く」などの指示が通りにくい場合も、電子黒板に表示した教科書に実際に線を引くととてもわかりやすいです。 ❷ 生徒の端末にデジタル教科書を表示し、総ルビ表示や本文読み上げ機能で個別にサポートする。 ➡初出の漢字や言い回しなど、読むことが苦手な生徒や外国にルーツをもつ生徒がいる教室を想定した取り組みです。生徒端末にイヤホンを挿すなどして、他の生徒が課題に取り組んでいる間にもデジタル教科書の読み上げ機能を利用するようにすれば、個別に読み方を確認することができます。 |
このような使用方法は、通常学級における合理的配慮を進めるだけでなく、全ての生徒にとって授業内容の理解がより容易になり、苦手意識を取り除く作用があります。生徒自身が興味をもった部分について学びを進める他、理解の不十分な部分に戻って学びを確認する機会を確保することもICT 教育の果たす重要な役割であると考えます。
※2021年2月よりGoogle Workspace for Education Fundamentalsと名称変更。