第9回 「情報モラル」
東京都板橋区上板橋第四小学校主任教諭
はじめに
GIGAスクール構想により、子どもたち一人一人にICT端末が配布され、情報モラル教育は改めて大切だといわれています。一方で、GIGAスクール構想前の情報モラル教育の考え方等、その捉え方は少しずつ変化しているように感じます。今回は、GIGA前とGIGA後を比較しながら、今、私たち教師に求められている情報モラル教育のあり方について、実践をもとにお届けしたいと思います。
GIGA前と後の捉え方
GIGAスクール構想前、3人に1台のICT端末が学校に配布されていたころは、ICT端末は子どもたちの意思で使うものではなく、教師から場面等の指示を受け、その指示のもと活用する、つまり教師の教具の一部でした。またネットコミュニケーション(チャットやコメント機能など)はありませんでした。それゆえ、情報モラル教育で指導すべき内容としては、家庭におけるインターネットやSNS、オンラインゲームとの関わり方、つまりエンターテイメントに富んだ使い方が主とされていたのではないでしょうか。デジタルは"危険なもの"であること、"規制の中で活用することが大切"などが盛んに問われていたように感じます。しかし、GIGAスクール構想により、子どもたち一人一人にICT端末が配布され、デジタルはより身近なものに変化していきました。今やICT端末は、子どもたちにとって"より身近な文房具"であり、情報を得るための道具であり、自分の考えを表現する道具でもあります。また、家庭においてもコミュニケーションツールを使えば、学校と同等の会話を行うことができるようになりました。つまり、学習にも、私的にも活用することが多くなり、デジタルがより身近となったといえるでしょう。
そのような中で、私たち教師は情報モラル教育の指導をどのように行っていけばよいのでしょうか。
私は、子どもたちの自律的な使い方の指導を行っていくことが大事であると考えています。つまり、大人が「~のように使いましょう」と使い方のみに終始した指導をし、その使い方に従って取り組んでいくのではなく、「どのように向き合っていくことがよいことなのか」を考える機会を設けていくということです。なぜなら、子どもたちが生きていく社会にICTは必須であり、さらには、それらの使い方は日々変化していくものであり、彼らはICTを活用し、よりクリエイティブに生きていく必要があるからです。
トラブルはチャンスと捉えることが大事
ICT端末が児童にとって身近になればなるほど、トラブルは生じるものです。私は、そのトラブルはチャンスでもあると考えています。
下の写真は学年の初めのころの私のクラスのチャットの様子です。
もちろん、事前指導は行っていましたが、少しずつ慣れ始めているということもあり、このような状況となっていました。まるで私的コミュニケーション、SNS上でのやり取りがここに現れているかのようです。まさに、ICTとどのように向き合うべきなのか、今、自分たちに求められている活用場面と、その場面において使うべき言葉について考えるためのチャンスだったといえます。クラス全体でこのチャットを確認し、言葉づかいをどのように捉えるのか、どうあるべきなのか、ICTとどのように向き合うとよいのかなどについて話し合いました。子どもたちからは、「学校と同じような言語を使ったほうが互いに心地よく読むことができる」「送る前に一度見直し、冷静になってから送信したほうがよい」等、デジタルとの向き合い方があげられました。チャットだけではなく、その後のコメントの付け方や意見交流の場面、さまざまな場面で、今もその考え方が生かされているように感じています。
終わりに
このように、今はICT端末が子どもたちの身近にあるからこそ、GIGAスクール構想前には見られなかったトラブルや問題行動が見られるのかもしれません。しかし、それは子どもたちがICT端末を自分の意思で使い始めればなおさらです。大人の介入が難しい場面も見えてくるでしょう。だからこそ、子どもたちを自分で考え、行動できるような自律的な使い手に育てていく必要があるといえます。
また、文部科学省における会議でもデジタル・シティズンシップ教育の大切さも話題となっています。私たち教師は、情報モラル教育、デジタル・シティズンシップ教育について考えていく必要があるといえるでしょう。なお、経済産業省におけるウェブサイトSTEAM Libraryでも、「GIGAスクール時代のテクノロジーとメディア~デジタル・シティズンシップから考える創造活動と学びの社会化 」がクローズアップされています。ぜひご参照ください。
【著者プロフィール】
公立小学校の講師、教諭、主任教諭を経て、令和3年度文部科学省初等中等教育局GIGA StuDX推進チームに所属し、全国のGIGAスクール構想の推進のために活動。GIGAスクール構想の理念とICT活用の在り方等を全国に発信してきた。今年度は、学校現場に戻り、6年生の担任としてICT活用の実践に取り組んでいる。