提言「はじめてのGIGAスクール実践」(1)
東京学芸大学教授
東京学芸大学教育学部・教授 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。独立行政法人教職員支援機構客員フェロー(2020年~)。教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)(2019年~)、文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」委員(2020年〜)、「ICT活用教育アドバイザー」(2020年〜)、「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」座長代理(2021年~)等を歴任。
〈小学校教科通信 2021年5月号より〉
1. なぜ「GIGAスクール構想」なのか
GIGAスクール構想によるICT環境整備は、コロナ禍のために3年の計画が1年に短縮されました。リモート授業やPCの持ち帰りが繰り返し話題になったこともあり、「コロナ禍に対応するためにGIGAスクール構想が行われている」と感じる先生がたもいらっしゃるかもしれません。しかし、これはコロナ禍以前からの計画です。ここで、改めて背景を振り返ることを通して、実践への見通しをもちたいと思います。
GIGAスクール構想の背景としては、
・新学習指導要領への対応
・ICT環境整備の自治体間での格差の解消
が、主にあげられると思います。
新学習指導要領の総則において、情報活用能力が言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられたり、各教科の目標・内容等でも、さまざまな箇所にICT活用が前提となる記述が見られたりしています。これらは、世の中が、素手のみで仕事をするのではなく、ICTも上手に活用して仕事をするようになったことと対応しています。
それ以外に、なぜこうした記述が新学習指導要領で必要になるかといえば、わが国は、さまざまな国際調査において、ICT活用が含まれると低位になることがあげられるでしょう。例えば、OECDの国際成人力調査という成人を対象とする学力調査(2011〜2012年実施)によれば、日本は「読解力」や「数的思考力」は1位ですが、「ITを活用した問題解決能力」となると10位です。また、同じくOECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)の2018年調査では、「読解力」の得点・順位が有意に低下しましたが、この理由の一つに、コンピュータを利用したテストであったことがあげられています。
つまりわが国は、大人も子どもも、鉛筆と紙を使うのであれば負けないけれども、ICTを使うと負けてしまう、ICTという道具を上手に使えていない、という状態になっているのです。
ICTが上手に使えないというのは、そもそも環境整備が充分ではなく、自治体間で格差があるという問題にも起因します。学校のICT環境整備は、地方自治体の責任において整備が行われることとなっています。しかし整備状況には都道府県によって差があり、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は、1.8人から6.6人までと開きがあります(2020年3月文部科学省調査)。これは小・中学校も含めた数値ですが、義務教育としては心配になるほどの地域間格差があり、新学習指導要領の総則においても「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え」と記述されるに至っています。教育目標などを記述する学習指導要領にあって、ICT環境整備に言及されるというのは異例ともいえ、強い危機感の表れであったと思います。
それらに対応し、平成30(2018)年6月「第3期教育振興基本計画」において、「学習者用コンピューターを3クラスに1クラス分程度整備」といった目標が示されました。続いて、令和元(2019)年6月「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」において、海外の事例を引用しつつ、1台あたり300ドル以下という安価なクラウドベースの端末の活用が有力な選択肢として示されました。つまり、これまでに学校現場で整備されていた端末1台分の費用で3台まかなえるのではないか、そうすると「一人一台」が実現できるのではないか、という新しい道筋が見えました。そして令和元年12月、GIGAスクール構想を含む「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」が閣議決定されたのです。
このような経緯を考えれば、GIGAスクール構想では、Society 5.0への対応や、個別最適化学習にふさわしい環境づくりなどがあげられているものの、その本質は、新学習指導要領のいっそう高度な実現であると考えることができるといえます。
令和3年1月の中央教育審議会答申(「令和の日本型学校教育」の構築を目指して)においても、「新学習指導要領の着実な実施」と示されています。そのアプローチの方法として「ICT活用」「個別最適な学び」「協働的な学び」等があるのだと整理すると、わかりやすいでしょう。