提言「はじめてのGIGAスクール実践」(2)
東京学芸大学教授
東京学芸大学教育学部・教授 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。独立行政法人教職員支援機構客員フェロー(2020年~)。教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)(2019年~)、文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」委員(2020年〜)、「ICT活用教育アドバイザー」(2020年〜)、「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」座長代理(2021年~)等を歴任。
〈小学校教科通信 2021年5月号より〉
2.成功のカギは「クラウドをいかに活用するか」
実践するにあたり、GIGAスクール構想では、どのような特徴をもつICT環境が整備されるのかを知る必要があるでしょう。
コンピュータは、多くのケースで1台4.5万円ほどの端末が整備されました。ソフトウェアも含めてこの価格です。ふだんの感覚で使おうとすれば、起動するだけで時間がかかり、動作が遅すぎて授業にならないと思うかもしれません。
以前、文部科学省の担当者がGIGAスクール構想について講演した際、「GIGAスクール:全く新しいICT環境」と見出しのついた資料が提示されていました。これまでも学校のICT環境整備の動きはあったかと思いますが、今回は「全く新しい」と考えることが必要です。何が新しいかといえば、「クラウド」を活用することが「全く新しい」のです。
クラウドの活用を前提に、安価なコンピュータが整備されていますので、これまでのICT活用イメージと全く発想が異なることが多くあります。もう進化のしようがないと思っていたワープロソフトですらクラウド型になり、共同編集など活用のイメージが変化して、驚きと新鮮さを与えています。私自身も、クラウド活用が始まってから研究スピードが上がりました。
導入される端末のOS(オペレーティングシステム:コンピュータ全体を制御して使いやすくするシステム)はどうなるでしょうか。全国1,512の教育委員会への調査結果(MM総研 2021年1月)によれば、Google Chrome OSが43.8%、iPad OSが28.2%、Microsoft Windowsが28.1%と、わずかな差とはいえ、これまで100%近かったWindowsが最下位となっています。実際には、各OS上でどのクラウドサービスを活用するかが重要になりますが、その利用状況をみると、Google Workspace for Education(旧G Suite)が54.4%、Microsoft 365が38.4%になっています。つまり、多くの先生がたにとっては、あまり使った経験のないOSやクラウドサービスを活用することになります。また、使い慣れたWordなどが使えるMicrosoft 365が導入されたとしても、クラウドで使おうと思えば、操作イメージは異なる点も多々ありますので、結局、多くの先生がたにとっては新しいチャレンジになることと思います。
クラウドサービスといえば、Webメールのやりとりやデータの保管をイメージするかもしれませんが、クラウドの本丸は、データやスケジュール等の共有、共同編集などになります。しかし、388名の先生がたに調査した結果によると、まだまだ多くの先生は、プライベートでもこうした活用をしたことがない状態です(表1)。これらの機能に、まずは先生が慣れていくことが重要ですし、さまざまな研修の場でも積極的にクラウドの活用を取り上げていく必要があるといえるでしょう。
表1 教員が利用しているクラウドサービス(登本・高橋 2020)
選択肢 | 回答数 | (%) | |
1 | Webメール/Gmail、iCloudメール、Yahoo!メール、Exchange Online など | 298 | (76.8) |
2 | データの保管/Googleドライブ、OneDrive、iCloud Drive など | 223 | (57.5) |
3 | データの共有/Googleドライブ、OneDrive、iCloud Drive、Dropbox、Amazon Drive などを使った友達や教員などとのデータの共有 | 136 | (35.1) |
4 | オンラインでの共同編集/Googleドキュメント、Googleスプレッドシート、Googleスライド、Word、Excel、PowerPoint、Pages、Numbers、Keynote などを使っての共同編集 | 103 | (26.5) |
5 | スケジュールの共有/Googleカレンダー、iCloudカレンダー、Outlookカレンダー、TimeTree などを使った部活・サークル活動、友達、家族、教員などとのスケジュールの共有 | 99 | (25.5) |
6 | ビデオ会議/zoom、Google Meet、Microsoft Teams、Cisco Webex Meetings など | 173 | (44.6) |
7 | 上記のサービスを利用したことがない | 27 | (7.0) |
8 | わからない | 17 | (4.4) |
クラウドは、インターネットの先にあるGoogleやMicrosoftなどのサーバに接続して、ワープロや表計算のソフトを使うという仕組みです。学校でも家でも、端末が変わっても、スマホでも、続きから入力作業ができます。本来の意味でのクラウドサービスであれば、アプリやソフトのインストールは不要で、Web上で動作しますし、そのつどダウンロードされますので、最新のサービスを常に活用することができます。次々と新しくなり、ボタンの位置や形が変わるのはよくあることですので、臨機応変に操作を覚えていくことが求められます。
インターネット上のサーバにデータを保存するのが心配と思う先生がたもいるかもしれません。これは、お金に例えれば、タンス預金なのか、銀行に預けるのかということと似ています。タンスにしまうよりも、プロが最新セキュリティで守ってくれている銀行を使う人が多いように、パソコン上のデータもプロに預ける時代になりつつあるといえます。ただし、あらゆるコンピュータがインターネットに接続していますので、個人の端末でもクラウド上でも、操作をまちがえればあっというまにデータが世界中に拡散します。データの取り扱い、誤操作などに留意が必要なことには変わりありません。
学校だけでなく企業などにおいても、世界的にクラウドの活用が始まっています。大きな変化ですので、ある意味では、これから取り組む地域にチャンスがあります。これまでにICT活用の蓄積がある地域では、いったん立ち止まってクラウド活用のイメージをしっかりとつかみ、必要であれば従来の実践ノウハウを見直す必要があります。