言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q6
「的確」か「適確」か
『大言海』(冨山房刊)や『大日本国語辞典』(冨山房刊)などを見ると「的確」の表記しか示されていない。また,中国の古典にも,「的確」は見られるが,「適確」は見あたらないようである。
現在の辞典類でも,
日本国語大辞典 | 的確・適確 |
例解新国語辞典(三省堂刊) | 的確・適確 |
新選国語辞典(小学館刊) | 的確〔適確〕 |
岩波国語辞典(岩波書店刊) | 的確(「適確」は当て字) |
広辞苑(岩波書店刊) | 的確(「適確」とも書く) |
新明解国語辞典(三省堂刊) | 的確(「適確」と書く向きもある。) |
明鏡国語辞典(大修館書店刊) | 的確 適正確実の意で「適確」と書くこともあるが,これを「的確」の意で使うことは誤りであろう。 |
朝日新聞の用語の手引 (朝日新聞社刊) |
(適確)→的確 |
などとなっていて,まずは,「的確」が望ましい書き表し方であるといってよい。
ところで,なぜ「適確」という語が用いられるようになったかであるが,例えば,地方自治法の第二百二十二条に「必要な予算上の措置が適確に講ぜられる」という一節がある。この場合の「適確」の意味は,予算上の措置が「必要にして十分に」講ぜられる,という意味で,一般に使われる「的確」とはやや意味が異なる。ちなみに,『岩波国語辞典』では「的確」の意味を,「的をはずれず確かなこと。真相を突いていて正確なこと。」としている。
一般に,「適確に遂行する」「適確な措置を講じる」などと用いられる場合の「適確」は,この法令用語と同じ意味で使われ,その点では,「的確」を誤って「適確」としたのではなく,「適正確実」「適切確実」を略した形として,「適確」という語が生まれたと考えてよいだろう。
以上の点を考えると,使い分けが必要であるともいえるが(『例解新国語辞典』は使い分けを示している。),教育現場で,漢字のこのような意味の違いをどこまで重視するか,という問題が残る。
国語審議会は,第42回総会(昭和36年3月)で「語形の『ゆれ』について」の審議報告を行っているが,その中の結論の一つとして,「漢字の意味のわずかな相違にあまりこだわることは,社会一般としては限度があるであろう。」と述べ,その例の中にこの「的確(適確)」を取り上げている。
したがって,教育現場においては,「的確」を使い,厳密な使い分けが要求される場合は,「適正確実」「適切確実」などと書き表せばよいのではなかろうか。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。