言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q7
「二男」か「次男」か
一般的には「次男」が使われているが,戸籍や履歴書などでは「二男」が使われる。
『日本国語大辞典』では,「じなん」の見出し語に,「次男・二男」と二つの書き表し方を掲げ,「むすこのうち,二番目に生まれた子。次子。次郎。」という説明を付している。その用例を見ると,『吾妻鏡(あずまかがみ)』と『平家物語(へいけものがたり)』では「次男」を使い,『太平記(たいへいき)』では「二男」を用いている。つまり,古くから両様の書き表し方があり,ともに「じなん」と読まれていたのである。
小型の国語辞典ではその取り扱いはいろいろであるが,いずれも「次男」を正しい書き表し方として示し,「二男」という書き表し方もあること,法律上では「二男」と書くこと,あるいは,「常用漢字表(じょうようかんじひょう)」の音訓外で「二男」という書き表し方もあること,などが参考として書かれている。
法律上で一般に「二男」が使われているのは,必ずしも明確な規定によるわけではない。「戸籍法施行規則(こせきほうしこうきそく)」の付録に,戸籍の記載のひな型があり,それに「長男・長女・二男・二女」と例示されていることによるものである。また,それが履歴書や身上書でも用いられるようになったのは,一般に履歴書や身上書が使われるのは入学や就職のときであり,そういうときには,戸籍抄本(こせきしょうほん)や戸籍謄本(こせきとうほん)の添付が必要とされることが多いからである。
ところで,「二男」の読みであるが,先にもふれたように,常用漢字の「二」の音には「ジ」はなく,「ニ」だけである。しかし,戸籍の担当者はこれを口頭で言い表すとき,「じなん」と読みならわしているとのことである。もともと「二」の字音は,「漢音〔ジ〕・呉音〔ニ〕」で,「二男」は「じなん」と読んでよいのであり,前述のように,「二男」は古くから「じなん」と読まれていたのである。
これに対して,「次」の字音は「漢音・呉音とも〔シ〕」であり,「ジ」というのは慣用音である。なぜ慣用音「ジ」が生まれたかというと,「次」の旧字体は,そのへん(偏)の部分に「二」という形が用いられていたことによる,とされている。
「二」を「ジ」とよむのは,他に,手紙の末尾に記す「不二」,人名の「二郎」などがあるが,いずれも特殊な語や固有名詞の読み方であり,常用漢字の音として取り上げられなかったのであろう。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。