言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q9
「不気味」か「無気味」か
手もとの国語辞典を見ると,『岩波国語辞典』(岩波書店刊)は「無気味・不気味」と,『例解新国語辞典』(三省堂刊)は「不気味・無気味」と,二つの書き方を並列して掲げ,『新明解国語辞典』(三省堂刊)は「不気味」を採り,「無気味とも書く。」と注記している。その他の辞典も同様で,ほとんどが両様の書き表し方を示しているが,やや,「不気味」を望ましいとする傾向が見られる。
ところで,『言葉に関する問答集』によると,この2種の表記には次のようないきさつがある。
- 従来,「不気味・無気味」両様の表記が行われていたが,「不気味」のほうがやや優勢であった。
- 昭和23年内閣告示の「当用漢字音訓表」では,「不」には「フ」の音だけしか掲げてなく,「無」には「ム・ブ」と掲げてあった。そこで「無気味」または,「ぶ気味」という表記が広く行われた。
- ところが,昭和48年内閣告示の「当用漢字音訓表」では,「不」に「フ・ブ」と掲げてあるので,「不気味」と書き表せることになり,「1」の関係から「不気味」と書き表すべきとするか,「2」が定着したと考えて「無気味」と書き表すべきか,再び問題になってきたわけである。
結論的にいえば,両方の書き方ともかなり古くからあったのであるから,どちらか一方を正しいとか,誤りだとするわけにはいかない。現在行われている表記法を調べ,より一般的な表記法に従うということになろう。
武部良明氏の『漢字の用法』(角川書店刊)では,漢字の意味のうえから,
不(否定。そうでないこと。)
不器用・不格好・不細工・不風流・不気味・不調法・不用心・不祝儀・不粋・不精・不躾
無(「有」の対。それがないこと。)
無愛想・無遠慮・無作法・無頼の徒・ご無沙汰・無礼・無難・無様・無事・無音・無勢
というように,「不」「無」の使い分けが示してある。この使い分けは,現在のところ,かなり一般的なもので,各種の用字用語辞典とも,かなりの部分が重なる。このなかで問題になるのは,「不粋・不精・無作法」などであろう。例えば『朝日新聞の用語の手引』では,これらのうち「無精」と表記されることになっている。『NHK 漢字表記辞典』(NHK出版刊)では,「不粋・不精〔無〕・不作法」となっている。また,「常用漢字表(じょうようかんじひょう)」では,語例欄に「不作法」が掲げられており,教育現場における一つの目安となっている。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。