言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q10
「注文」か「註文」か
「注」という字は,「そそぐ。一点に集中する。」という意味で,「注入」「注目」「注視」,などと用いられる。それが転じて,「注釈」「頭注」など,「語句を解釈する書きこみ。」の意味に用いられ,更に,「書き載せる。」「くわしくときあかす。」意に用いられるようになった。そして,このような転じた用い方は全て言葉に関係があることから,「さんずい」を「ごんべん」に入れかえた「註」という異体字が造られ,用いられるようになったのである。
したがって「註」という字の意味は,当然「注」に含まれているわけで,「ちゅうもん」も,本来は「注文」であり,それが「註文」とも書かれたわけである。
そこで『大言海』(冨山房刊)は「注文」のみを掲げ,『大日本国語辞典』(冨山房刊)は,「ちゅうもん」の項では「注文・註文」と併記しながら,「注文書」「注文帳」などと,複合語の見出しには全て「注」のみを用いている,というように,かつてはむしろ「注文」のほうが優勢であった。しかし,簿記で「註文」のみを用いたために,「註文」もしだいに使われるようになり,やがて次のようなかたちで,「注」と「註」の使い分けが広く行われるようになった。
「しるす」の意......註釈・頭註・評註・註文
ところが,「当用漢字表(とうようかんじひょう)」が制定された時,同じ音で意味の近いものは,一方を省き,他方に書きかえるという方針が採用され,使用範囲の広い「注」が選ばれた。そして,「同音の漢字による書きかえ」(昭和31年,国語審議会報告)が発表され,「註文」は「注文」に書きかえることが望ましいとされたのである。
したがって,一般には「注文」「註文」の両方が使われているが,学校教育においては,「常用漢字表(とうようかんじひょう)」に掲げられている「注」の字を使い,「注文」と表記すべきである。
なお,上記「同音による漢字の書きかえ」では,
と,3語が掲げられているが,同時に,
として,「註」を用いた全ての語の場合に,「注」に書きかえることを示している。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。