言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q12
「木の実」は「きのみ」か「このみ」か
17世紀初頭に発行された『日葡辞書(にっぽじしょ)』においても,「Qinomi」「Conomi」と,両形の見出し語を掲げ,また19世紀に発行された『和英語林集成(わえいごりんしゅうせい)』をはじめ,現代にいたる大型の辞典においても,そのほとんどが,「きのみ」「このみ」の両方の形が見出し語として掲げられている。
しかし,現在使われている小型の辞典類では,ほとんどが「このみ」だけを見出し語に掲げ,「きのみ」は「このみ」の項で語形だけを示しているにすぎない。例えば,児童用の国語辞典『例解学習国語辞典』(小学館刊)では,「このみ」の項で,「ドングリ・クリ・クルミなど,木になる実。きのみ。」としているが,「きのみ」は見出し語に掲げていない。
したがって,現在では,「このみ」と読むほうが一般的であるといえよう。
しかし,「草の実」と対比して「木の実」というようなときは,「きのみ」と読むべきであろう。つまり,「の」に助詞意識が感じられる用例においては,「きのみ」と読むわけである。
「木」を「き」と読むか,「こ」と読むかの問題は,「木の実」だけではない。「木」の読み分けを分類すると,次のようになる。
(1)「き」と読む場合
木戸 木登り 木場 木肌 木彫り 木の根 木の香
(2)「こ」と読む場合
木陰 木立 木の間
(3)「き」とも「こ」とも読む場合
木の実 木の葉 木の芽
「木の葉」「木の芽」については,現在も両様行われていて,どちらが優勢であるかはいえない。
ただ,「きのは」「きのめ」と読めば,「の」に助詞意識が感じられ,「このは」「このめ」と読めば,一語意識が強くはたらく。そこから,文脈の中での読み分けがある程度は可能になるであろう。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。