言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q15
「鼻血」は「はなぢ」か「はなじ」か
「鼻血」は,現代仮名遣いでは「はなぢ」と書き表す。
昭和61年7月1日告示の「現代仮名遣い」の「第2 特定の語については,表記の慣習を尊重して,次のように書く。」の中に,「5 次のような語は,『ぢ』『づ』を用いて書く。」とあり,その第二項に,
(2)二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」
例はなぢ(鼻血)そえぢ(添乳)もらいぢちそこぢから(底力)
ひぢりめんいれぢえ(入知恵)ちゃのみぢゃわん
まぢか(間近)こぢんまり
ちかぢか(近々)ちりぢり
と,示されている。
「鼻血」は,「鼻(はな)」と「血(ち)」との複合語で,単独で用いるときには清音である「血(ち)」が,他の語「鼻」と複合して「ち→ぢ」の濁音に変わるという,いわゆる連濁現象を起こしたものである。このような連濁現象は,ほかにも数多く見られる。
例えば,
あまい(甘い)+さけ(酒)→あまざけ(甘酒)
のようになるのがそれである。これらと対応させて,
と書き表し,一貫性があるわけである。
したがって,「はなぢ」という書き表し方は,この語が「はな(鼻)」と「ち(血)」とからできているという分析的意識を尊重したものであるといえよう。「もらいぢち(もらい乳)」「ひぢりめん(緋縮緬)」「いれぢえ(入れ知恵)」「ちゃのみぢゃわん(茶飲み茶碗)」「ちかぢか(近々)」などに「ぢ」を用いるのも,同じ理由によるものである。
また,「一日中」「世界中」など「いっぱい」の意味をつけ加える「中」は,現代語の意識では二語に分割しにくく,かつ常に濁音で現れるので「いちにちじゅう」「せかいじゅう」と書き表すことにし,「授業中」「工事中」など「続いている」意味をつけ加える「ちゅう」とは別なものであるとするような,「現代仮名遣い」の問題点もある。なお,「現代仮名遣い」では,「せかいぢゅう」の表記も認めているが,平成22年11月30日内閣告示の「常用漢字表(じょうようかんじひょう)」で,「中」に「特別なものか,又は用法のごく狭いもの」として「ジュウ」の読みが追加されたこともふまえ,現在のところ,「せかいじゅう」と書き表すのが一般的であると思われる。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。