言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q16
「十匹」は「ジッピキ」か「ジュッピキ」か
「十匹」「十本」「二十世紀」などの「十」の発音は,現在,一般的に「ジッ」のほうが標準的だと考えられている。
「常用漢字表(じょうようかんじひょう)」の音訓欄でも「ジュウ・ジッ・とお・と」と「ジッ」のほうを掲げており,「ジュッ」はない。また,現在刊行されているほとんどの辞典類が,いずれも「ジッ」を採っていることからも裏づけられる。
しかし,現在では,年代層や地域の別なく,「ジッ」と発音する人も「ジュッ」と発音する人もいる。それを考慮して,NHKでは「二十世紀」の発音として「ニジッセイキ・ニジュッセイキ」の両様を採ること,また「十」の発音の「ジッ」「ジュッ」については,他の用例についても,全てこの決定を準用することを決めている。これは,実際に「ジュッ」と発音する人が非常に増えてきている事実を特に考慮したためと思われる。
では,「ジッ」「ジュッ」のいずれが本来の形かといえば,漢字音の系統からすれば,「十」の字音がもともと「ジフ」であったことから,「ジッ」に変化するのが本来の形であるということになる。そのことは,
「納」......ナフ→ナッ 納得(ナットク)
「入」......ニフ→ニッ 入声(ニッショウ)
「立」......リフ→リッ 立派(リッパ)
などの例によっても明らかである。
この「合・納・入・立」などのような「フ」を末尾にもつ字音は,促音化する一方で,「ゴー・ノー・ニュー・リュー」という発音の字が,「ゴッ・ノッ・ニュッ・リュッ」になった例はないといってよい。したがって,「十」についても,「ジュー」→「ジュッ」という変化は考えにくい。つまり,「十匹」の本来の発音は「ジッピキ」であったと判断できるわけである。
なお,17世紀初頭に刊行された『日本大文典(にほんだいぶんてん)』や『日葡辞書(にっぽじしょ)』でも,「ジッ」にあたる発音が示されているだけで,「ジュッ」にあたるものはない。このことからも,当時は「ジッ」と発音されていたことがわかる。「ジュッ」という発音が生じたのは,恐らく「十」の字音「ジュウ」を意識して,誤った類推をしたためと思われる。
ただし,平成22年11月30日内閣告示の「常用漢字表(じょうようかんじひょう)」では,前述のとおり,「十」の音訓欄は「ジュウ・ジッ・とお・と」と示されたが,同時に,備考欄で「『ジュッ』とも。」と示された。
このことから,「十匹」を「ジュッピキ」と発音してもよいが,「ジッ」という発音のほうを標準的なものと認めておくのが妥当であるだろう。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。