言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q18
「日本」は「ニッポン」か「ニホン」か
結論から先にいえば,どちらか一方に統一することは不可能で,現在のところ,どちらに発音してもいいということになる。
【国号としての「日本」の読み方】
はがきや切手にNIPPONと印刷表示したりしてあるが,国家的に読み方を決定したことは,これまで一度もない。昭和9年3月19日に臨時国語調査会(国語審議会の全身)で「国号呼称統一案」を発表し,「ニッポン」とすることを決議したが,これは政府で採択するまでにはいたらなかった。その後,戦前の帝国議会,戦後の国会を通じて,何度か国号呼称の統一が問題になったが,そのたびに政府側の答弁は,にわかにどちらかに決めることは困難であるという点で一貫している。
また,日本放送協会の放送用語並発音改善調査委員会(略称,用語調査委員会)では,昭和9年に国号としては「ニッポン」を第一の読み方とし,「ニホン」を第二の読み方とすることを暫定的に決め,昭和26年の同委員会で,正式の国号として使う場合には「ニッポン」,その他の場合には「ニホン」と言ってもよいという決定をしている。
では,なぜこのような二通りの発音が存在するのだろうか。「日」は漢音「ジツ」,呉音「ニチ」,また,「本」は漢音・呉音とも「ホン」」である。「日本」は呉音の字音読みとして,まず「ニッポン」と発音されたものが,しだいに促音を発音せず,やわらかな「ニホン」に変わっていき,両者が併用されてきたという説が有力である。室町時代には,国号呼称として両者があったことが,謡曲や『日葡辞書(にっぽじしょ)』『日本大文典(にほんだいぶんてん)』などであきらかにされている。
【「日本」を含む複合語あるいは複合的固有名詞の読み方】
『NHKことばハンドブック』(NHK出版刊)では,「日本」の読み方について,次のようにまとめている。
(1)「日本」
正式の国号として使う場合は〔ニッポン〕
そのほかの場合には〔ニホン〕と言ってもよい。
(2)「日本~」「~日本」
○ 〔ニホン〕と読む語
日本画/日本海/日本海溝/日本海流/日本髪/日本共産党/日本紙/日本酒/日本書紀/日本大学/日本脳炎/日本橋(東京)/日本風/日本間/日本霊異記/日本料理/東(西)日本
○ 〔ニッポン〕と読む語
日本(国号)/日本永代蔵/日本国/日本国民/日本賞/日本橋(大阪)/日本放送協会/日本社会党(旧政党名)/新党日本
○ 〔ニホン〕または〔ニッポン〕と読む語
日本一/日本記録/日本犬/日本語/日本三景/日本時間/日本製/日本男子/日本刀/日本晴れ/全日本
○ 〔ニホン〕を第1とし,〔ニッポン〕を第2とするもの
日本アルプス/日本銀行
※なお,日本銀行のホームページによれば,「日本銀行」の呼称について以下のように記載されている。
「日本銀行」の読み方については,法律などで「○○と読む」と決められている訳ではなく,また,日本の国名を「ニッポン」と読むか,あるいは「ニホン」と読むのかという問題に似て,二者択一的に決めるのは難しいところです。ただ,お札の裏に「NIPPON GINKO」と印刷してあることもあって,日本銀行では「ニッポンギンコウ」と呼ぶようにしております。
また,『日本国語大辞典』では,「ニッポン」の読みとして見出し語に掲げる語例として,
があり,「ニホン」の見出し語の中には,次のような語例を揚げている。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。