言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q20
「人々」か「人人」か「人びと」か
教科書においては,「人々」と書き表す。「国々」「年々」「日々」「堂々」なども同様である。ただし,行頭に第2字がくるときは,「々」の使用を避け,「人人」と書き表す。
そもそも「々」は漢字ではなく,重出する漢字をいちいち書く手間を省く,繰り返し符号である。このほか,「ゝ」「ゞ」などの繰り返し符号があるが,これらの符号は,固有名詞でないかぎりは,教科書では使用されない。「々」のみが用いられる根拠は,昭和27年の「公用文作成の要領」の中に,「同じ漢字をくりかえすときには『々』を用いる。」と示されているからである。
ところで,漢字の2字以上の組み合わせが重なるもの,例えば,「一人一人」「一試合一試合」などや,2語の連合で,前の語の最後とあとの語の最初が重なるもの,例えば,「民主主義」や「説明会会場」などの場合は,「々」を用いないのが望ましいし,教科書では用いていない。
では,教育現場で,書き取りなどの場合にどれを正しいとするかという問題が生じるが,当然,「人々」「人人」のいずれもが正しいとするべきであろう。語として「人人」を採り,書き表し方として「人々」を採るというような使い分けは,かえって混乱を生じさせると考えられる。
北杜夫(きたもりお)の『楡家(にれけ)の人びと』のように,「人びと」という書き方も見られるが,これは繰り返し符号を避けたいという考え方とともに,「ひとびと」という連濁の読みをわかりやすくしたいという意識がはたらいているからであろうか。また,「一人ひとり」というような書き方が見られるのも,繰り返し符号を避けたいという意識が強くはたらきすぎたためだと思われる。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。