言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q28
「魚(うお)」と「魚(さかな)」はどう読み分けるか
昭和23年内閣告示の「当用漢字音訓表(とうようかんじおんくんひょう)」では,「魚」の音訓は「ギョ」と「うお」しか掲げられていなかったため,標題のような疑問は生じなかった。しかし,改定された,昭和48年内閣告示の「当用漢字音訓表」,および現行の「常用漢字表(じょうようかんじひょう)」においては,「さかな」という訓が掲げられているため,特に小学校低学年の音読学習において,このような疑問が生じているようである。つまり,どのように「さかな」と「うお」を読み分けるかという問題である。
「うお」は,記紀万葉の時代から魚類の総称として使われているが,「さかな」が同様の意味で使われ始めたのは比較的新しく,近世になってからのようである。もともとは「さか(酒)+な(副食物の総称)」で酒を飲むときに添えて食べる物,いわゆる「酒のさかな(肴)」を意味した(「な」は「魚」のことで,「酒魚」の意,あるいは,「なぐさむ(慰)」の「な」であるといった語源説もある)。それが転じて,魚類の総称の意に使われ,近世になると,例えば「魚市」の場合,「うおいち」「さかないち」の両様の言い方が行われるようになった。
では,現代ではどうなっているかだが,まず,「魚河岸・魚市場・魚心・白魚・魚屋」「小魚・魚売り」などの「魚」については,問題ないだろう。また,魚屋に並んでいる「魚」,副食物としての「魚」の類を,「さかな」と言うのも異論がないと思われる。問題なのは,水中にある「魚」であり,その周辺の「魚釣り・川魚」などである。
大ざっぱにいって,古語が比較的多く残っている西日本では,「うお」(ないしは「いお」)が使われ,関東では,「さかな」が用いられているようである。
したがって,「魚」に「うお」と「さかな」の二つの訓が認められている現在,水中にある「魚」をどちらかに限定することは不可能で,むしろ地域地域の実態にまかせるしかないと思われる。
しかし,教育現場において,どちらかに限定する必要にせまられ,それを判断する根拠が見いだせない場合は,現在では「さかな」と読んでよいだろう。国立国語研究所がまとめた『日本言語地図(にほんげんごちず)』によれば,全国的には,「さかな」を魚類の総称とする人が,数のうえでは圧倒的に多いとのことである。
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