言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q30
「美しいです」「大きいです」という言い方は正しいか
形容詞に断定の助動詞(「だ」)の丁寧体「です」を接続させる言い方は,昭和27年4月14日に国語審議会で建議された「これからの敬語」以降,今日では,もはや誤用とはいえないのが実情であり,教科書のうえでも認められている。「これからの敬語」の中の「形容詞と『です』」という項目では,
これまで久しく問題となっていた形容詞の結び方──たとえば,「大きいです」「小さいです」などは,平明・簡素な形として認めてよい。
とあり,「これまで久しく問題となっていた」というのは,次のような事実経過をふまえている。
それまでの文法書や国定教科書『中等文法(ちゅうとうぶんぽう)』などでは,「です」は体言と助詞「の」にのみ接続し,動詞・形容詞にはつかないと説明していた。(ただし,「です」の未然形に推量の助動詞「う」のついた「でしょう」の場合は例外とされ,「美しいでしょう」「大きいでしょう」は認められていた。)
つまり,形容詞を丁寧体にするには,「美しゅうございます」と,「ございます」を下につける言い方しか認められていなかったのである。ところが,この言い方は,丁寧すぎる・冗長すぎるとして,だんだん一般の人の意識にそぐわなくなり,「美しいです」「大きいです」のような言い方が,「花です」「親切です」(学校文法では,「親切です」は形容動詞の丁寧体としている。)などに対応するものとして,実社会で用いられるようになってきた。
「これからの敬語」が,できるだけ「平明・簡素」な敬語にしようという基本的方針に基づき,「これからの対話の基調は『です・ます』体としたい。」と定めた。
そこで,名詞の場合の「いい天気だ。(常体)──いい天気です。(丁寧体)」,動詞の場合の「よく降るね。(常体)──よく降りますね。(丁寧体)」と同じく,形容詞の場合も,「美しいね。(常体)」に対応する丁寧体「美しいですね。」という言い方を,従来の文法書では正しくないとされていたにもかかわらず,積極的に認めていこうという見解を示したわけである。
なお,形容詞を過去の言い方に用いる場合は,「美しいでした」「大きいでした」「ないでした」と言うより,「美しかったです」「大きかったです」「なかったです」「ありませんでした」と言うほうが一般的である。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。