音楽の授業では,つい歌うことだけに終始してしまいます。1年生としてどのような力をつけることが必要ですか。また,その指導方法を教えてください。
【答え】
拍やリズムを感じ取る力,表現する力をつけましょう。
指導方法は,拍打ちやリズム打ち,音楽に合わせて歩くなど身体表現を取り入れます。拍打ちは,指揮の模倣にもつながり,強弱を感じ取ったり表現したりする学習活動に広げることができます。
【なぜ】
拍やリズムは,音楽を形作る基盤となるものです。拍は音楽の流れを表し,リズムは音楽の特徴を表します。拍を感じ取ることができると,音楽全体がどのように流れているのかを感じ取る力や表現する力が育ちます。リズムを感じ取ることができると,音楽の特徴を感じ取る力や表現する力が育ちます。拍やリズムを感じ取る力,表現する力は音楽学習における重要な指導内容なのです。
指導方法は身体を通す活動ですから,拍やリズムを「実感」することができ,「できた・わかった」と学習の満足につながります。
低学年の指導では,特に楽しく活動しながら力をつけることが大切です。身体を動かすことや繰り返し同じ活動することを好むこの時期だからこそ,どの子どもにも楽しみながら音楽の基盤となる力をつけることができる活動です。
また「手で表現する」ことで,音楽の流れや特徴を視覚化することができるので,一人一人の感じ方や,表現への思いを評価し指導に生かすことができます。教師や子ども,子どもどうしが互いの音楽の感じ方や表現を見合い,共感し,高め合うことにも広がります。
拍打ちやリズム打ちは,表現・鑑賞どちらの学習にも活用し,常に繰り返し取り組むことが効果的です。
【方法】
「拍打ち」と「リズム打ち」は,楽器でも行いますが,手拍子が身近ですぐ取り組める,しかも指揮につながる方法です。
この活動で重要なことは,教師の拍打ちやリズム打ちの仕方です。どのような音楽なのか,打ち方がそのまま音楽の特徴など感じ方を表し,どのように表現したいのかを表します。真似をすることが好きなこの時期の子どもたちにとって,教師の拍打ちやリズム打ちは,そのまま子どもの感じ取る力や表現する力へと直結しますから,教師自身が音楽を感じ取って,拍打ちやリズム打ちを示すことが指導の重要なカギとなります。
音楽は苦手だと思われる先生方も,打ち方のコツさえつかめば,自信をもって指導することができます。
多くの場合,手拍子は打った瞬間,両手が左右に開きませんか。拍打ちは,手を打つ次の瞬間までの間が,一拍の長さを表します。左右横に開く打ち方ですと,打ちやすいので拍と拍の間が短くなり,一拍ずつの長さを保つことができず,速くなってしまうのです。子どもたちが手拍子を打つと,だんだん速くなっていった経験はありませんか。
そこで打ち方のコツは両手を打った瞬間,上に向かって手をはじき,それぞれの手が左右に円を描くように打ちます。両手で一つの大きなハートを描く感じです。この打ち方ですと,円を描く間は一拍の長さを保つことになり,拍の流れを正確に感得することができるのです。描くハートの大きさで速さや強弱を表すことができます。
また,打つ音が重い感じになると音楽も重くなります。軽く打ちましょう。
子どもたちが歌う時にこの打ち方を示しながら歌わせると,声まで変わってきます。どの打ち方で歌うと音楽に合う歌声になるか,子どもたちと共に試してみてください。打ち方の違いと歌声の違いとの関係を実感することができます。
またリズム打ちのコツは,片方の手のひらに,もう片方の指先を当てて軽く打ちます。ちょうどフラメンコの雰囲気です。リズムがぐんと打ちやすくなります。
さらに休符やのばす音の表現も大切に指導します。特に休符は音楽の一部です。必ず指導しましょう。休符の表し方は,両手をそれぞれ握るなど,動きを止めると音との違いが明確になります。歩く活動のときは,休符を感じたところで止まる,ポーズをとるなどすると実感が高まります。のばす音の表し方は,のばす音の長さ分だけ両手を広げましょう。拍打ちと同じ方法です。
活動は初めのうちは全体で,次には列や班,二人組でなど繰り返し行いながら,一人でできるように育てましょう。
☆拍打ちリズム打ちの活用方法
例えば,初めて学習する音楽に出合うときには,その音楽に合わせて拍を打つ活動をします。「音楽に合わせて」活動するので自然に音楽に集中して聴くことができます。この活動を発展させると歌う力が十分でなくても,強弱を手の広げ方で表現することができます。強弱の違いを両手の広げ方で表すなどの約束を決めておきます。例えば,体の幅と同じ広げ方(前ならいと同じと表現するとわかりやすい)は普通の強さ。幅を広げると強く,幅を狭くすると弱くなどです。歌う力が十分でなくてもこの方法を用いると「ここは強く歌いたい」と自分の思いを歌声だけでなく手の広げ方の表現で伝えることができます。(私はこの活動を「手で歌う」と表現しています。)
また,拍打ちに慣れてきたら,指揮のように両手を上下させその振り方を変えるだけで,「元気のよい感じ」「やさしい感じ」と曲の気分や曲想の変化も表現し,伝え合うこともできるのです。