音楽の授業で困っています。追いかけっこの学習では歌がごちゃごちゃになってしまいます。どのように指導したらよいか知りたいです。
【答え】
拍の流れにのり「相手の声を聴く体験」を通して,音楽の楽しさを味わいます。
【なぜ】
低学年における歌唱の指導には,音高の指導はありますが正しい音程で歌う指導はありません。低学年では音に対する感覚を育成するので,音には低い音と高い音があることへの気づきを,手の上下など身体表現を通して実感することが指導内容です。
追いかけっこ(輪唱)として歌う学習における指導で目指すのは,双方の速さが合うこと,「拍感を育てること」です。ところが,実態は先行も後行もそれぞれが違う速さで歌うためバラバラになってしまいます。特に多くの場合速くなってしまう傾向がみられます。その理由は,二つあります。
一つは拍の流れを感じ取る力がついていないからです。もう一つは互いの声を聴いていないからです。どちらも「聴く力」です。
一つ目の拍の流れとは,脈拍のようなものです。一定の速さで打ち続けること。この拍の流れが音楽の心臓部です。低学年ではこの感覚を育成することが最重要課題なのです。一定の速さで流れる拍にのり,リズムや旋律が重なり曲となり,歌詞が加わることで歌となります。ちょっと大げさな言い方ですが,拍が崩れれば曲そのものが存在できないのです。つい音として聴こえるリズムや旋律,歌や歌声に気が向き「出来ないなあ」と嘆いてしまうのは当然でしょう。しかし,ここが決め所です。
拍の流れは音楽だけでなく,スキップや行進など日常にもあります。音楽は人の心や体から生まれてきたものです。荷物を運ぶ時の掛け声もその一つです。日本には手拍子がありそれに合わせて歌う音楽もあります。洋楽としての拍の流れも基本的には同じです。手拍子が呼吸に合わせて自然な中にもやや速度を変化させている自由度があるのに比べ,拍の流れは一定の速さが保たれるため自由度はありません。もちろん表現として一時的に速度の変化もありますが,一定の速さを打ち続けることが拍の流れなのです。
人間の呼吸などとは違い正確に一定の速度を保ちます。そのために,まずはこのような「拍の流れ」の存在に気付かせることが第一歩です。子どもたちは,この拍の流れの音楽に囲まれて生活していますが,体感しているわけではありません。外的な一定の拍であり,自分の体のリズムとは違うため「聴いていない」と,ずれが生じてしまうのです。
もう一つは互いの声を聴くことについてです。低学年の子どもは自分の声を聴く意識はありません。脳が未分化で二つのことは同時にできないのです(このことは今までずいぶんとふれてきました)。
まず,いつものように「音楽の先生は自分の耳」の指導を繰り返しながら意識化を常に図ります。聴く係などとして交代で輪唱を聴き合うことです。自分たちはできていると思っているのですから,ずれていることや速くなってしまっていることを実感させることが重要なのです。
このように音楽の授業では,子どもたちの聴くことへの気づきや意識化,そして「聴く力」として資質・能力を育成することができる場面や内容が多様にあります。指導する側が意識していると見えてきます。椅子から立つときのあのガラガラとした音。無意識に容認していませんか。子どもたちは,あの音を「いる音・いらない音」「もう一度聞きたい音・聴きたくない音?」と,音に対して無意識に日常生活を送っています。
ここに気づかせることも,音楽の学習として重要ではないでしょうか。美しい音や歌声を聴くことへの指導は重ねても,いらない音への指導は薄いと感じています。豊かな感性とは,このように日常における音への関心をもたせることから始まると考えます。ぜひ一考し指導してください。子どもの行動や言葉の使い方まで変容がみられてくることを実感しています。
【方法】
気づきは,実感させることが重要な指導のポイントです。そのためには音楽に合わせて歩く,手拍子を打つなど必ず身体を通しての指導が必須です。特に歩くことは「音楽に合わせて」を合い言葉にするなど,よく聴くことを意識させて指導に取り組むと「自ら聴くこと」につながり,資質・能力の育成につながります。
一定の速さが流れていることへの気づき,感じ取ること。そして表現できること。これが指導する内容となるのです。
そこで輪唱の指導を考えましょう。ここで重要なことは,二つの旋律が追いかけることを実感し音楽の楽しさを広げ味わうことです。正しい音程で二つの旋律が重なることを狙っているのではありません。ここを間違えると大変。
まずは,歌が歌えるようにしましょう。範唱を聴くだけでは旋律をつかむことは難しい。なぜなら範唱は伴奏として約三の音が入っていて,そこから旋律を聞き取るのは難しく,さらに歌声から旋律を聴きとることはさらに高度なことです。一見聞いていれば何か歌えているように思いますが,それは音程感を会得している大人だからできることです。学習し始めの子どもには音高感や音程感は,未学習です。今.これから学ぶのですからできないのです。そこで,旋律だけを弾き,音をよく聴いて歌うことを指導します。旋律を聴くことが目的です。
できるようになってきたら,和音伴奏により,拍の流れと旋律の音の支えとの双方を支援します。どの活動においても聴く係を作り,自分たちで聴くことを意識化していくと聴く意識が高まり,音楽の学習への主体的な取り組みも見えてきます。