第3回 Think & Try! コーナーの活用
インプットから、自分で考えや思いを表現するアウトプットへ
〜Think & Try!の工夫例〜
加瀬政美 (千葉県旭市教育委員会 外国語教育アドバイザー)
1 はじめに
インプットは、聞くことや読むことを通して、語彙や文構造、ことばのルールを頭の中にストックする、いわゆる「入力」であり、アウトプットは、その蓄積したストックを用いて、話すことや書くことを通して発信していく、いわゆる「出力」です。生徒に自分の考えや思いをのせたアウトプットをさせるために、どう指導すべきか、多くの英語教師は悩んでいることと思います。教科書各Lesson内の各Partに設けられているThink & Try!コーナーの工夫例を紹介しながら、2つのポイントに迫りたいと思います。
2 課題の前に「やり取り」を充分に行う
Think & Try!は、教科書本文の内容と密接につながっている活動です。本文でインプットしたことを、自分が考えた状況に置きかえて英語でアウトプットし、「使える」状態にシフトする活動です。2年Lesson 9 Part 2(p. 109)のThink & Try!を題材として、工夫例を紹介します。
本文に関連する書く活動が設定されています。「他の人とのコミュニケーションにおいて、ジェスチャーは役に立つ」ということを前提として、様々な視点から2~3文加えて文章を組み立てる活動になっています。具体的な事例を挙げて説明しても、一般論でふくらませてもかまいません。しかし、ここで大事なことは「すぐに生徒に書かせないこと」です。課題の前に「やり取り」を充分に行いましょう。
例えば、本文冒頭の以下の英文がモデルとなります。(下線は、筆者が追加。)
この英文を確認した後に、教師が設定したコミュニケーションの目的・場面・状況(下線部にあたる情報)を提示します。それに対して、生徒は自分なら英語でどう言うかを考えて話します。ここでは、「誰」が「何」を尋ねたのか、そして尋ねた相手にジェスチャーで「何」を示したのかをイメージさせながら、生徒が自身の頭の中の引き出しから語彙を選び出していくプロセスを大事にします。また、自分の考えたアイディアを仲間と表現し合い、仲間との「いいね!」「そこは、こう言った方がいいんじゃない?」「そう言いたいなら、こうじゃないかな?」という「やり取り」が、生徒の気持ちを活動に惹きこんでいきます。これが、話すことや書くことへの高いハードルを下げ、学びやすさに繋がります。そしてハードルを越えた経験は自信にも繋がっていきます。
この「やり取り」では、教師が早い段階であまり教えすぎないよう、注意が必要です。例えば、尋ねた人が女性でも、本文を参考にしてI showed him ~. と言ってしまう生徒がいるかもしれません。しかし、教師はそこですぐに「herを使わないといけないよ」と教えるのではなく、生徒自身が思考し気付く機会だと捉えて大事にしましょう。
小学校の外国語科では、音声で充分に慣れ親しんだ後に「書く」活動に進む学習展開は有効だとされています。中学校においてもこの指導は大切にしていきたいものです。
3 「ことばを貯める」時間を充分にとる
廣森(2023)は、「インプットは現状の言語知識(中間言語)と目標言語とのギャップを認識する機会を与えるとともに、そのギャップを埋める役割も果たしている。」とインプットの大切さを述べています。
中間言語の例として、「午前は会議だ」と言いたくて"Morning is meeting." 「コーラは太るよ」と言いたくて"Cola becomes fat."というアウトプットが発生することがあります。これらの例は、正確なアウトプットにはなっていませんが、これは成長の過程と捉えましょう。そして、その克服には、「ことばを貯める」充分な時間が必要です。アウトプットしていくなかで学習者が自ら「あれ、何かおかしいな!」と「気付く」行為が成長を加速させるポイントです。
そして、Think & Try!では教師が課題について説明した後、「では書いてみよう」「では言ってみよう」という流れで進められがちです。しかし、生徒のなかには、表現するという行為に不安を抱く者も少なくありません。
アウトプットする前に、自分の考えや思いを英語でどう言うのか、自分の英語表現のストックから何をどのように使えばいいのかを考える充分な時間を与えることが必要です。その時間を使って、苦手としている生徒に個別に支援していくことも英語教師として大切になってきます。
ぜひ、Think & Try!を活用し、書く活動の前に口頭でのやり取りをする時間を設けましょう。そしてすぐに話したり、書いたりするのではなく、「ことばを貯める」時間を充分にとり、ステップアップしながら自分の考え、思いをアウトプットできる実践になることを祈ります。
【引用文献・参考文献】
廣森友人:『改訂版 英語学習のメカニズム 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』大修館書店(2023)
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