第4回 Grammarページの活用
言語の使用場面を重視した文法指導
〜Grammarページをアウトプットに繋げる工夫例〜
加瀬政美 (千葉県旭市教育委員会 外国語教育アドバイザー)
1 はじめに
外国語の学習指導要領では「言語の使用場面の例」が挙げられています。授業内の言語活動においては、それらを活用し、コミュニケーションを行う目的や場面、状況を具体的に設定することが重要です。その際に教師は、生徒の身近な暮らしに関わる家庭・学校・地域などでの「場面」や生徒が近い将来に遭遇する可能性のある「状況」を設定しましょう。生徒がそれらの「場面・状況」のなかで、ターゲット表現がどのように使われているのかを理解できていなければ、その表現を習得したとは言えません。
『ONE WORLD English Course』の各Grammarページには、ページ上部の文章(やり取り例やスピーチ例)を参考にして「友達と会話してみよう」という活動設定があります。今回は、その会話の活動の際の工夫例を紹介しながら、Grammarページで文法を学ぶだけでなくアウトプットに繋げられるポイントを紹介します。
2 「場面」と「機能」を具体的に明示する
Grammarページ上部の文章が「場面」のなかでどのような目的(=機能)を果たす表現なのかを、教師が具体的に明示することで、生徒は頭のなかでその状況をイメージしやすくなります。これが「言語の働き」の理解を促進します。ここでは、3年生Lesson 5のGrammar(p. 65)を使った工夫例を紹介します。
現行版の学習指導要領から中学校で扱うことになった「仮定法」ですが、どのような指導が効果的だろうかと悩んでいる現場の先生方は少なくないでしょう。
指導する前に、まずは仮定法についての理解を深めていきましょう。仮定法とは「〇〇だったら、△△なのになぁ」という気持ちを表す表現です。ポイントは「現実ではないことを仮定すること」と「仮定法には裏があること」です。例えば、「もし明日晴れたら」というのは、現実にあり得るので仮定法ではなく「条件」を表す節で表します(ここを混乱する生徒が多いので注意です)。また、現実ではないことを仮定するので、「現実はこうである」という裏の事実が存在します。例えば、3年生Lesson 5のGrammarで示されたAのセリフの「私は1,000万円を持っていたら」という仮定には、「1,000万円を持っていない」という裏の現実があります。そのようなポイントを生徒に意識させながら、「If節の中は、『現実ばなれ』しているので時をずらしますよ」「結びの『△△なのになぁ』『△△だろう』は少し『控えめ』だから、wouldやcouldが来ますよ」と説明し、生徒に仮定法の英文のリズムを身に付けさせていきます。そのうえで、「場面」をしっかり設定し、生徒がそのイメージを思い浮かべることができればすぐに使えるようになります。文字で理解させるのではなく、イメージを想定できる「場面」がキーとなります。
指導工夫例1
言語活動場面の詳細 私Aと友だちのBさんは、総合的な学習の時間に「自分の将来」について話し合っています。そのなかで、私Aが「歌がうまかったら、有名な歌手になれるのに。」と切り出します。その後、Aが夢について想いを伝えたりBさんも夢を話したりしながら会話を展開させます。
目標文 If I were a good singer, I could be a famous singer on TV.
ポイント 「○○できたら願いがかなう」という気持ちをのせて、一方的に伝えるだけでなく、相手の発話内容についてメモを取らせるようにします。
指導工夫例2
言語活動場面の詳細 英語の授業中にアメリカ出身のALTの自己紹介を聞きました。私Aは願いを込めて「もしアメリカに住んでいたら、○○するだろうに。」と切り出します。その後、Aが夢について想いを伝えたりBさんも夢を話したりしながら、会話を展開させます。
目標文 If I lived in the U.S., I would visit many National Parks there. 等
ポイント アメリカでの生活に夢を膨らませながら、お互いにやりたいことを伝え合い、会話を継続させます。さらに、次時の帯活動でSmall Talkを行う際には次のように繋げるとよいでしょう。
教師: New York is one of the biggest cities in the U.S. Some of you want to live there, don't you? If we live in a big city like Tokyo or New York, we may not need a car because there are many train and bus networks. However, we would need a car if we lived in the countryside, right? If we lived in the countryside, what else would we need?
生徒1: We would need Wi-Fi and internet access in the countryside to shop online and receive home delivery.
指導工夫例3
言語活動場面の詳細 修学旅行が間近にせまったある日、私Aは友だちのBさんと買い物に来ています。お店はセール中で、お買い得な商品がたくさんあります。その中の1つが友だちのC君が欲しがっていたものであることを思い出しました。C君に電話で教えてあげようとしましたが電話番号がわかりません。そこで一言、私Aは「彼の電話番号を知っていれば、連絡するのに」と切り出します。Bさんとやり取りしながら、どうにかC君をそのお店に誘う方法を模索してみましょう。
目標文 If I knew his phone number, I would call him.
ポイント 目標文を言わせることがゴールではなく、目標文を含めつつproblem-solvingに挑む「粘り強さ」を養いたいと思う教師の意気込みが必要です。
指導工夫例4
言語活動場面の詳細 部活動のミーティングで、大会での勝利に向けて話し合っているうちに激論になりました。その時、キャプテンである私Aが「皆が私の立場だったらどうする?」とチームメイトたちに言いました。そこから、生徒自身の所属する部活動をイメージしてグループミーティングをさせます。
目標文 If you were the captain of our basketball team, what would you do?
ポイント まず、キャプテンとなるAが切り込み、個々の気持ちが表現できるように5~6名程度のグループで意見交換を行った後で、出た意見をクラス全体で共有し合いましょう。
従来、文法の指導において、形式・意味の指導は充分に行われてきましたが、言語材料を「どのような場面、どのような目的で活用すればいいのか」という点に重点を置く指導はあまり行われてこなかったかもしれません。特に、現行の学習指導要領で新たに中学校の学習項目として導入された「仮定法」は、生徒に理解させることに精一杯で、知識としての習得のみで終わっていることが多いのではないでしょうか。教科書のGrammarページ上部の文章を参考に「話す(やり取り)活動」をする際には、学習指導要領に示された「言語の使用場面」「言語の働きの例」を活用しながら、生徒にとって身近でイメージの湧きやすい場面設定を行いましょう。
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